kenjimorita のすべての投稿

フロントエンドエンジニア芸人/インド芸人/もりたけんじの武骨日記 ・NSC東京9期 東京湾に入港してくる貿易船の綱取りをしていた頃、先輩芸能人の運転手する。ビジネスホテルでフロントで英語ができなかった挫折を味わい、力を付けに1人でインドへ渡航した。帰国後世界から発信するためWeb技術をつけたくなり、専門学校へ通う。以後、プログラム言語JavaScriptの正直さに惹かれ 「フロントエンドエンジニア芸人」を極めるため日々奮闘中。現在はサイバーエージェントにジョイン

グルザーと別れた後わたしは暫く市中を放浪した。

0427

どうにか気持ちを整えようとして何かに飢えたように被写体を探しシャッターを切った。
被写体の彼等は「やあ」と首をちょっと横に傾ける。
挨拶を返したり、「おい!カメラマンだぞ」と仲間を呼んで肩を組むポーズで静止してくれた。
「ほら撮れよ」の合図。
カメラに収めると一様に「どれどれ今撮った奴を見せてみろ!」と寄ってきては
プレビューで見る自分の姿に歓喜し、こちらに笑顔を向け、ハイタッチを誘ったり、親指を立てる。
わたしは挨拶をしてその場を離れるとまたこの地にしか降り注いでいないのではないかと勘繰りたくなるような炎天下を歩く。

バイパスという程大仰でもないロータリーというほど簡単ではない道路沿いにインド版「不二家」はあった。

0440

先程リキシャーにグルザーと乗っていた際に通り過ぎて
「ここはおいしいよ。デリーに来たら必ず寄るんだ。」とお勧めしてくれたところに立ち寄る。

日本では誕生日をケーキで祝うがインドでは豆で祝うようだ。

0431

0429

0430

誕生日にロウソクは立てないみたいだ。

わたしはショーケースを覗いたり、写真を撮ったり話しかけたりする。

「コレは何だ?」
「サモサだ。」
「サモサ?」
「これとこれとこれ。」
「お前はそんなに食べるのか?」
「お腹すいてるんだ。とっても。」

0434

揚げたてで何層もの衣の中にカレー味のマッシュポテト。

0436

相席になった小学生ぐらいの子供2人がお小遣いで同じものを食べている。

コンビニの肉まんのような食べ物なのかもしれない。
わたしは子供達に「おいしいね?」と投げ掛けた。

子供達は外人からの一言をまるで喋らないオブジェが急に喋ったような「夏休みの不思議な体験」として処理してくれた。

ちょうどわたしの顔の付近で蝿が舞っている時間に。

0439

わたしは先程までの事を思い出してみる。

グルザーとわたしはリキシャーから降りると

わたしを友達のオフィスと呼ばれるツアー会社に案内した。

所かしこにネパールの写真やら、インドの有名な世界遺産の写真などが壁を埋め尽くし今日日日本では見ることの出来ないような大きくて古いデスクトップの前に案内した。

グルザーの友達は若い大学生くらいの細身で目鼻がクッキリした青年で、

「わたしがインド人の生活が見れるような場所はないか?」と聞くと色々提案し始めた。

わたしはグルザーの友達とグルザーとデスクを囲み今後の旅程を話し合ったが、

友達の話を聞けば聞くほどテンションが下がった。
グルザーの推薦してた場所と友達が提案する場所が余りにもかけ離れていて
最後はグルザーも「友達の案を呑むしかない」ような空気になる。

「アナタ1ニチマエニデリーにツイテイタホウガイイネ。インドのテツドウ時間オクレル。」
「日本語できるの?」
「ヒョウゴケンニ友達イルヨ。アナタドコカラ?」
「東京」
「オートウキョウ。ナマムギマナゴメナマタマゴー。」

彼の提案する鉄道のチケットはジャイプルまで1280ルピー
ジャイプルからブルーシティと言われているジョイドプールまで1980ルピー。
ジャイドプールからデリーまで2100ルピー。

「インドに1000ルピーを超える鉄道チケットはない」というのが以前訪れた際の知恵だ。
わたしは余りにも高い料金に違和感を感じた。

あとは英語が分からないような振りをし、話が通じない日本人を演じて表に出た。

0424

わたしはグルザーに万が一何かまた別のツアー会社を紹介してもらいお互いの欲求を満たされない場合の事を考えた。

奥に通されて、人に囲まれて、YESと言わざるを得ないような状況も想定しなくてはならない。

断りづらくなるし付き合わせるのも悪い。
グルザーには「ちょっとここら辺を散策するよ。」と告げる。

「じゃあバザーに行こう」と提案される。
「バザー?なんでバザーなんだ?」
「いいから。すぐそこだ。」で乗り込んだ先は高級サリー店だった。

0425

まったく求めていないバザー?(絶対違う)の顔したサリー店に彼の「破れかぶれ」を感じた。

彼の心境の変化は理解できる。
最初は彼の言う「友達」としていい所を紹介してくれる。
それは本当にお勧めのところ。
インド門でもなければガンジー記念館でもない。
イスラム教寺院なのだろう。
彼がイスラムなのだから当然だ。
ただいつからか彼の中の商売心が沸騰し始めてくる。
彼は友達を紹介する。友達は歓ぶのだろう。
その友達にしてみればわたしはただの観光客。
それで話が進む。
その3人がこれからのルートを話し合った場合
「おいおいグルザー言っていた事と違うだろ」になる。
誰も勝つことの出来ないグーチョキパーをずーっと出し合っているような会話が続く。

「サリーなんて買わねーよ!」
「ここがバザーだ!」
「『ここがバザーだ!』じゃないよ!降りる降りる」
「どこに行くんだ!」
「ここら辺歩いてるわ」
「おいおい!待て待て!お金は?」
「は?」
「お金を払え!俺と運転手に!」
「お前ノーエクストラチャージ言ったじゃないか!いくら?」
「お前次第だ」
幾ら払ったか分からない。
「お前次第」と度量を試されていて、
わたしはルピーを数えている姿を見せるのが嫌でポケットにあったルピーをそのまま出した。

彼等は一応の金額を得たのか納得するとその場からいなくなった。

ただ彼らはこの日本人が次にどこに行くのか遠くから見守っているようで、遠巻きにこちらを見ている。

わたしはそれを巻くことを心掛けちょうど巻き終わった頃、
彼らはわたしを探しているように周辺をリキシャーで回っていた。

そしてまたわたしの前に姿を現した。

0426

0426_2

見てる!!怖いわ!!

その後わたしは市中を放浪し、友達だった頃のグルザーお勧めのサモサを食べた後、ある少年と出会う。

0441

「お前は結婚しているのか?」
「結婚はしていない」
「何歳だ?」
「32だ」
「わたしと同じ年じゃないか!笑 !日本のどこから来た?」
「東京だよ」
「そうか、わたしはベンガルだ」
「ベンガル?」
「いいところだぞ?マンゴー畑がたくさんあるんだ」
「マンゴー畑」
「そうだ。うちはマンゴー畑をやってるんだ。」
「そうだ。おい!お前あれを見ろ」
「ん?」
「あの女性、おでこのここ。」
「マンティカか?」
「そうだ!マンティカだ!既婚者という意味だ。」
「ほら俺にもここにあるだろ?」
「じゃあしていない人は全員未婚者なのか?」
「そうではない。まぁ。なんていうんだ。モダンなんだ。おい!あそこを見ろ」
「ん?」
「ヒンドゥだ。インドには多くの宗教が集まる。ヒンドゥ。イスラム。シク。クリスチャン。ブディス。仏教。。」
「グルザーは何の宗教なんだ?」
「わたしはイスラムだ」
「お前は知ってるか?7/24はラマダンなんだ。だから断食しないといけない。。。おい見ろ!」
「ん?」
「頭にバナナの束乗せているぞ!!サリーにバナナだ!」
「お前はこれからどこに行くんだ?」
「インド人の普通の生活が見てみたいんだ」
「そしたらデリーにはないな。デリーは本当のデリーじゃない。」
「本当のデリー?」
「お前は知っているか?デリーにいる人の80%は田舎に住んでいるんだ。」
「そうなのか。」
「東京と同じさ。大抵は地方の人だろ?今は夏休みだから混んでいるんだ。
お前はガールフレンドは何人いるんだ?」
「何人?何人もいるものなのか?」
「もちろん。」
「家庭を持っているのに?」
「そうさ。インド人はそうなのさ。そうだ。ちょっと待ってろ。お前に紹介したいところがある。
俺の友達が観光局に勤めているから。そこでお前は話を聞けばいい。」
「ノーエクストラチャージか?」
「ノーエクストラチャージだ」
「OK」
「ちょっとストップストップ。ここで観光しよう。」
「なんでだよ!(笑)」
「お前知らないのか?ここはイスラム今日の中でも有名な寺院だ。」
「知らなよ!なんでグルザーが観光するんだよ。観光するのは俺だよ!」
「いいから!ちょっと降りろ!」
「ほら見ろ!綺麗だろ?」
「綺麗だね」
「ちょっとお前のそのカメラ俺を撮ってくれ!」
「なんでだよ!」
「いいから!」

0423

いるか!こんな写真!!!

グルザーは自分がわたしと目が合う前から叫んでいた。

なんだ?どこからだ?
何年来も疎遠だった地元の旧友と再会を果たしたような「Frend!!!」でわたしを呼び止めた。
その距離の縮め方に圧倒されているうちにわたしは握手をされていた。
グルザーの手は厚く、握力が強い。

0411

このいい人そうな顔。

「どこにいくんだ!?」
口調も速くて次の言葉が出る前に
「ちょっとこっちにこい」
牛やリキシャー、サイクルリキシャーが行き交う道路の真ん中から少しだけ端に寄ると、
「どこいくんだ?」
と引き出す。
わたしは不信感より先に「こいつはなんだか面白そうだ」と、好奇心の脇をくすぐられた。
「インド人の普通の生活が見たい。どこかお勧めはないか?」
グルザーは「そんなことか笑」とのけぞりながら笑うと
「朝食はとった?」かと尋ねてきた。
「まだだ」
「まだ?OKOK。いいところしってるから。ついてこい。」
朝食でもとりながらそこらへんの話をしようじゃないかということみたいだ。

ニューデリーレイルウェイ駅付近の朝は早い。
駅に目指す人が多い中駅周辺を拠点にしている物流が郊外に向かう。
彼らは両腕になにやら重いものを持ちながら歩いたり、
白くて汚い牛に牽かせたり、自転車より細いタイヤ荷台に乗ったり、痩せこけた人に牽かせる。
わたしは原始的な躍動感の隙間をスイスイいくグルザーの背中にくっついていく。

道々で「わたしはこういうものだ」と証明書らしきものを提示されるがどうでもいい。
信用していないし信用している。

車も通る道路を横切り汚い店が立ち並ぶ歩道を2人の男がゆく。
「ここの道路の名前はなんと言う道路なの?」
「リビクタロード」

暫く行った後、突如店先でフライパンを操り何かを作っている主人にグルザーは話しかける。

0417

「ここだ」
着いたみたいだ。

0412

「ここ?せまくない?」
なんか喫茶店のような場所を想像していたのだがインド式のそれに連れて行かれた。
インド式のそれが喫茶店だというのはジュースボックスがあるかどうかで、
これがあれば日本で言うコンビニだし奥にイートインスペースがあれば喫茶店なのだろう。

店内。

0415

ビルとビルの間の、警察に追いかけられた泥棒が逃走経路に使うようなスペースで
朝食を頂く。

頼んでいないのにチャイが出てきた。

0413

グルザーが前もって頼んでいたのだろう。

0419

ラスク?と思うぐらい冗談だろ程の小さいインドにとって「本気の食パン」も出てきた。

「インドにはいつ来たんだ?」
「2日前だ」
いつ帰るんだ?」
「4日後だ」
彼らがわたしの滞在期間を聞くのはその中でよりインドの魅力が分かる訪問場所と経路を組んでくれるのだろう
グルザーはわたしのペンとノートを取って北インドの地図を書きだした。
「ジャイプルには行ったか?」
ホテルのフロントも勧めていた「ジャイプル」という所はどういうところなのだろう。
「ない」
「そうか。。そしたらお前はジャイプルに行く。」
決定したみたいだ。
「それからプシカルに行きなさい。プシカルは?」
「ない」
「笑。じゃあジャイプルの後、プシカルだ。それからビカニエル。ビカニエルは?」
「ない」
「ビカニエルに行った後デリーに帰って来る。どうだ?笑」
「センキュー笑」
ちょっと参考にしようと思う。
私が引っ掛かっているのは急ぎの旅にならないかということで、
じっくり腰を据えてインド人の生活を理解したいということなのだが、
正直場所はどこでもいいが、観光客が訪れるような所じゃなくてもいいし
有名な建造物を見上げたいわけじゃないのだが。。
ただ今日既に2回聞いた「ジャイプル」はどんなところなのだろう。
エッグオムレツ。

0414

あ。やっぱりここに置くのね。
「ニューデリーでは普通の生活は見れないぞ?」
「そうなのか」
「ニューデリーは郊外から働きに来る人ばかりだ。17000万人が訪れるがみな郊外からの人だ。」
「そうなのか」
「時間あるか?」
「ある」
「ちょっと行こう。紹介したい友達がいるんだ。」
「わかった」
グルザーは慣れたようにリキシャーを停め、「ここからすぐだ」と促す。
リキシャーはグルザーの運転手に何やら告げる。

インド人は最初親切心で助けてくれる。
ただ何か考えが変わる瞬間がある。
何かで距離が離れた時、友達だった目線が観光客になるのだろう。

インドについて教えてもらい朝食を取ったまではグルザーは確かにわたしをFriendとして接していたのかもしれない。

クラクションの音で目覚める。
小窓から射す光が部屋に朝を伝えている。

昨夜ニューデリーに着いたわたしは行く当てもなく1日目の宿に帰ってきた。
宿泊料金を知っているし場所も知っている。フロントの人も知っている。
この「既に知っている」ということは安心を与えてくれる。

深夜宿に何とか辿り着いたわたしは
改まってはじめてのお客を装い主に質問した。
「部屋空いていますか?」
主は覚えていたらしく「お帰り!笑」と出迎えてくれた。
何よりも嬉しい言葉だ。
「同じ料金で大丈夫か?」
「笑。問題ない。」
「同じ部屋で大丈夫か?」
「笑。もちろん。」
「笑。ありがとう」

通された部屋は同じ部屋ではなかったところが「インド」だし、
前回バスタオルが用意されていなかったので、
予め「バスタオル一枚部屋に持ってきてくれ」とスタッフに頼むと、
なかなか持ってこない。
またクリケットでも見てるのかと催促すると、
少年が部屋までやってきて、
「ほらよ!」と「うるせー日本人だな」みたいにバスタオルを投げつける。
あのガキ、今度見かけたらカレーに入れて朝食ってやる。

起き抜けに足元がザラついていることに気付く。
「なんだこれは」

0406

ベットの上にこれらが散乱している。
パラパラと起き上がるわたしの体の上からも零れ落ちる。
わたしは上を見上げた。
部屋の天井の塗装が一晩掛けて降り注がれたようだ。
昨日の夜落ちていなかったのに、
就寝中降ってきたってこと?
パキパキしたそれらはありがたいぐらい細々と荷物に付着している。

0407

この不運でもない、嫌がらせでもない、泣き寝入りするしかない絶妙なインドを
受け入れるときわたしはいつも「安宿だし」の即効薬を飲む。
するとすぐに気持ちが落ち着く。

チェックアウトの12時まで散策しようと思う。
荷物をまとめながら思いが廻る。
日本から持ってきたこの三脚が重くて邪魔でしょうがない。
カメラは何かで固定すればいいし、捨ててしまいたいぐらいだ。
伸縮性がありコンパクトにまとまるのだがリュックの中に入れると
なんとかギリギリ、チャックが閉まるぐらいで、他のものと入れようとすると
カンガルーの懐みたいにリュックから顔を出す。

極力荷物は少なめに用意した。
PCも少し重い。
取った写真はPCのハードデスクに保存しなくてはいけない。
SDカードは64GBの日本製なら1万超えるものをなんだかよくわからないメーカーのをネットで3000円で購入したが、こちらに来てすぐ壊れた。
代替用のSDカードも持ってきておいてよかった。
リスク管理が物を言うなと感じた。
大事なことにも優先順位を決めておかないといけない。
命。帰国。無事故。時間。思い出。お金。

よし。
わたしは荷物をまとめて下に降りてゆく。
「good morning」
「good morning」

フロントに聞いてみる。
「Hai,I have some question, I want to see usually life of Indian,Could you please recomend something place? Where should I go?」

ここニューデリーは地方から来る出稼ぎ労働者でなかなかインド人の生活は見られないらしい。
「Have you already gone Jaipur?」
ジャイプル。。

フロントを後にしてわたしは軽い気持ちで散策する。

0408

0409

0410

ただインドはそうはさせてくれない。
ひと度、表に出れば、好奇の目で外国人を見るのだろう。
その証拠に歩いてものの5分で「Hai!Frends!!」
と呼び止められ握手を求められた。

0411

そしてこの後わたしはこの「グルザー」という男に巻き込まれることになる。

雨上がりか。

0401

照明がないオールドデリ駅前は暗くて何がなんだかよく分からない。
とにかく動こう。駅前でツーリスト丸出しはやめよう。カモにされる。

「お前はどこに行くんだ?」
リキシャーから頻繁に投げ掛けられるこの言葉はわたしをイラつかせる。
「どこだっていいだろ」
暑さと疲れのせいかもしれない。

地図もガイドブックは持っていない。
駅前で「さぁどっちの方向だろうか?」となれば当然リキシャーを捕まえ、行き先を告げるのが本来だろうが、なぜかそれをよしとしない自分がいる。

「全部こちらのタイミングで告げる。乗りたいときは乗るし。そちらのタイミングでは乗らない。」

結果、このいらない意固地が放浪を強制させる。

寝れれば結局の所どこでもいいんだ。

駅周辺を30分ほど歩いて部屋を探したがこの時間だと厳しい。

ホテルはどこも満室。
強気で高値を放る。

幾度となく断られて、また断られ、外に出たわたしはいらだっていた。

「お前はどこにいくんだ?」
わたしは懲りないこのインドに対して
日本語で「うるせー」とはき捨てる。

「ウルセ?」
「うるせー」

どうしたどうした。揉めていると人が集まってきた。
すると男は
「いや、実はこいつが『ウルセ』っていうんだ。」
と仲間に告げる。

すると仲間は驚く。
「お前本気か」というような剣幕でこう言う。

「お前は『ウルセ』まで行くのか?本気で言っているのか?」
(そういう場所があるのかよ!)

「もう一度考え直せ!オールドデリからウルセだぞ!?」

。。。

「お前は『ウルセ』まで何で行くつもりだ!?」
「うるせ!ばか!」
「by bus?? お前バスで行くのか!?止めておけ!!It' so far!!!」

もういいわ!!
笑ってしまったよ。
「わたしをニューデリーまで連れて行ってくれ笑」

先程から2段ベットの下から排水溝の汚れをポンプで吸い上げてるかのようなイビキが聞こえてくる。
あのインド人だ。下で食事してた。

真っ暗な車内はたまに外から漏れてくる光で薄暗くなる。
ここの寝台列車はクーラーが効きすぎている。
寒い。
わたしはブランケットを体に巻きつけながらいびつに腫上がっている荷物を枕にして
「やはり一枚長袖を持ってくればよかった」と悔やんでいた。

インドは確かに暑いのだが寝台列車は寒いことは有名で、

出発前のわたしは暑さ対策しかしていなかった。

今この列車はどこを走っているのだろう。
「オールドデリーに着いたら起こしてくれ」と車内のスタッフに伝えていたのだが
どこかの駅に着くと他の乗客が起き出して荷物をまとめ、通路に列を作り始める。
その大多数の人々が降りる様子がわたしに「主要駅」である事を連想させ
段々「ここがオールドデリーじゃないだろうな?」と不安にさせてくれる。
あのスタッフが伝え忘れているのかもしれない。
わたしは暗い車内から小窓に顔をべた付けして確認する。
「まだだよ笑 次の駅だ。」
ベッドメイクが笑いながらそう教えてくれると「ありがとう」と言い、
無用な心配が晴れてまた安心して固くて狭いベッドに戻った。
仰向けになる。
心に留めとかないといけないことは
今ここインドにいて、寒くて固いベンチのようなベットの上で横になっているというリアルは、
一ヶ月後の日常生活に戻ると「また戻りたい場所」になっているということだ。
大げさに言うとこの悪環境がいつか「夢のような時間を過ごしていた」という解釈に変わるかもしれない。
そのことを心に留めておいて残りを過ごさなくてはいけない。

「起きろ。オールドデリーだ。」
目が痛くなる程明るい車内は次の客を迎え入れる為に動き出している。
何語か分からない言葉が飛び交っていて誰もが忙しそうだ。
小窓から外見ると薄暗いホームにサリーを着た人々が大きな荷物を転がしたり、
頭に抱えたり、同じ方向に歩いていて、
電子音と何言っているか分からない場内アナウンスはそれらに喧騒感を与えている。
「こんなにも多くの人が乗っていたのか。」

その今までの途中駅とは違う状況はわたしに「また始まる」と緩んだ帯を締めなおさせるような気持ちにさせる。

わたしは荷物を急いでまとめ、寝ていた場所と寝ていた真下等の室内を確認し16kgのリュックを背負う。

2段ベットの上から飛び降り出口を目指す。
「サー。ギブミーサムチップ!」
わたしはポケットに入っているいくらかのコインをベットメイキングスタッフに渡しホームに降りた。

0393

「何してる!あれだ!!早く線路に飛び込め!」
わたしは駅員に急かされると衆人環視の中線路に飛び込んだ。

アミ、アメベス、セミはわたしがハリドワード駅前で腰を下ろしていると隣りに座ってきた少年達で、
14歳ぐらいに見える彼らは「come with me!!」とわたしを連れ出した。
駅構内に入っていくと、
わたしは何かを見せてくれるのではないかと期待した。
英語が話せるアメベスは案内しながら「日本人か?」と尋ねてくる。
彼はそれを友達に伝えると次の質問を仲間から受け取り
「どこに行くんだ?」「インドは何回目だ?」と始まった。

どうやら首から提げている一眼レフに興味があるみたいだ。

足早に前を歩く3人と暫くいくと彼らは急に立ち止まり、
何事か話すと、
意見がまとまったみたいで「ちょっとそこのベンチに一回座ろう」とわたしを促す。
ベンチに4人で座る。

「なんなんだよこれ!」

付いて来い!と意気軒昂にいうぐらいだから
何かあるのかと思ったら。
彼らはわたしを連れ出しどこかに入ろうとしていたのかもしれない。
「やっぱ外国人だからダメか。。」と何かがキャンセルされたみたいだ。

無邪気な少年3人が日本人を挟んで座っている。

わたしは暫く話をして
名前を覚え、何をするわけでもなく出会いの時間を過ごした。

目の前にニューデリー駅構内で見た体重計がある。
英語が話せるアメベスに「これはどのように使うのか?」
と聞くと体重計の乗り方を教えてくれる。
「まず乗ってからお金を入れる。暫く待つと出てくる」
「これをニューデリーでやったら出てこなかったよ?」
「乗ってから乗ってから入れるんだよ。入れてから乗った?」
「入れてから乗った」
「そりゃ出てこないよ笑」
乗ってみる。

「86kg」

「あ、そうだ。荷物だけの重さを量りたいんだ」
彼らはもう一度やり方を促してくれる。
「16kgか。そりゃ重いわけだ。。」

わたしは外国人らしく目に付いたもの全て質問をしてみる。
彼らにしてみれば「そんなところ気になるのか!」と面白がれるだろう。

「あれは何だ?」
「WANTEDだ。」
そうなのか。。。
「間違えた。Misshingだ。」

あそこにある黄色いボックスは何?
「P.D.S」だ。
「P.D.S」セル電話ボックス

また定位置に戻る。
4人ベンチに座る。

目の前を通る他のインド人がわたし達を見ては通り過ぎていく。
珍しい光景なのかもしれない。
少年達はどこか誇らしげだ。

わたしは顔全体に虫除けスプレーを掛ける。
蝿が辺りを大きく旋回している

こうやっているとどうにかして現地の言葉を学びたくなる。
それでもっと距離を縮めたい。
これから先「ご馳走様」と「ご親切にありがとう」と「さようなら」はヒンドゥ語で言いたい。
「アープカェーセーハェー(ご機嫌いかがですか?)」
「ダンニャワード(ありがとう)」
「アープキーケリパー(ご機嫌いかがですか?)」
「イェキャーハェー(これは何ですか?)」

本に書いてあるものを棒読みしただけの発音だけれど彼らはわたしが発したヒンドゥの多くの不純物を
取り除き精査し「おー!アープカェセーハェー!」と鸚鵡返ししてネイティブの発音を何度も教えてくれる。
彼らには変な発音に聞こえても笑えるし、
日本人がネイティブのような発音になるとそれはそれのギャップがあるらしくゲラゲラする。
私達は言葉を変え、
たまに、バックを背負いながら「わたしのバックが盗まれました」という言葉を発してみたり
して変なヒンドゥー講座を楽しんだ。

「そろそろ時間だ。」
わたしが立ち上がると、彼らは最後にというニュアンスと雰囲気で
「ジュース飲むか?」と尋ねてきた。
わたしは、駅ホームにあるジューススタンドで一杯ご馳走になるのだが、
何か申し訳ない気持ちになった。
彼らは年下でお金の持ち合わせも少ないだろうことは分かる。
払おうとすると「いいんだいいんだ」と受け取ろうとはしなかった。
わたしは先程覚えた「ダンニャワード」をできるだけ綺麗に発するように努めていうと、
彼らは同じ言葉を繰り返し、私がどういう表情をしているか見ている気がした。

わたしはこれから彼らと「さようなら」をしないといけない。
最後の挨拶をヒンドゥ語で言おうとタイミングを待っている。

ホームに列車が入ってくる。
セミが言う。
「チケットを持っているか?見せてみろ」
わたしは「ここのホームで待っていれば大丈夫。そう駅員から既に聞いている。」
と伝える。
念には念をなのかアミが見せてみろとやる。
「ちょっと待て!今聞いてきてやる。」
アメベスが車掌に確認しに行く。
「わかったぞ!この列車だ!」
そうそう。この列車だ。
「君の列車は何番ホームだい?」
「僕達もここだ」
「ニューデリーに行くのかい?」
「僕達はそこには行かない。」
「そうか」
「僕達は階級が違うからあっちに行くよ?」
「そうか。。さようならだね。」
「さようなら!」

私が面前の列車に足を掛け入り口で彼らを見下ろす形で別れを告げると
アミが後ろから慌てた顔で何かをいう。
それを受けたアメベスが
「ちょっとまて!その列車じゃないみたいだぞ!!降りろ降りろ!」
動き出す列車。
「降りろ降りろ!」
え?今もう動き出してるのに?
いいから降りろ!それはニューデリーには行かない!

見えるか?あっちにホームがあるだろ?あそこから19:50分発の列車だ
わかった!ありがとう!!じゃあね!!

ホームとホームの間は駅構内の陸橋を渡って行かなければならない。
時間がない。
全速力で走息を切らして乗り込んだ列車の車掌に聞く。
これは「どこのシートですか?」
「ちょっとまてチケットを見せてみろ。ん?
これはあっちのホームだぞ?」
「この列車は違う列車だ。お前の席はない。」
「わたしはあちらのホームから来たんだぞ?」
「間違えない。あちらのホームに到着する列車だ。」

わたしは全速力で戻り、
先程3人と別れたホームで次来る列車を待つ。

インド鉄道の運行ダイヤは日本のように正確に動いていない。
遅い場合は8時間遅れる列車もあるぐらいで、
なんの理由もなく常時遅れている。
それに対応するため、
観光客は何時間前からホームで待ち、インド人は構内に寝ながら対応する。
また、
やっと来た列車だが入ってくるホームが変わることもある。
ここのホームで待っていた列車が一番向こうのホームに滑り込んでくることがあるから気が気じゃない。

翻弄されたわたしはどうやらあの子供達が間違えたと理解して
「ほんとうにもう頼むよ。。」と無邪気に疲れた。
わたしは確認しなくてはいけない。
先程間違えて乗り込んだ車掌はこっちのホームだと教えてくれたが、
もう一度誰かに聞いてその信憑性がふわふわしている情報に確信を求めたい。

汚いツーリストポリスに入っているリザベーションオフィスを尋ねると
禿げ上がってちょび髭の車掌がデスクに足を掛けて仕事をしている。
「このチケットの列車は?」
わたしが尋ねると
男は目を凝らしよくチケットを見る。
すると立ち上がり、今外から帰ってきた同僚に何かを話す。
わたしのチケットを皆で回し、一人一言感想をいう。
何かが問題になっている。
何だ?
「こい!」
わたしは背の高い車掌と一緒にオフィスを出て、
チケットを低い位置で渡された。
「このチケットの列車はもう既に出発した。」
「出発した?」
「もう既に出た。」
「いつ?」
「先程。」
「どこに行きたいんだ?」
「ニューデリーだ。」
「もう今日はニューデリー行きの列車はこないぞ?」

わたしは全てを理解したところによると、
最初に子供達が乗り込んでわたしが降りた列車が正規の列車らしかった。
彼らはデリーをオールドデリーだと勘違いして違うホームを指差した。
わたしはそれに従い走って向かい側に行き乗り込んだが、
そこの車掌は反対側を指差す。
わたしはまだ来ていないものだと勘違いして列車を待つがもう既にそれは出発した後だった。

背の高い車掌が言う。
「おい。お前いいか?ニューデリーには行かないが、オールドデリー行きはあるぞ?」
「どうやって?わたしはチケットを持っていない」
「大丈夫だ。問題ない。」
「どうすればいい?」
「見えるか?一番向こうのホームだ」
「見える」
「あそこで今動き始めた列車があるだろ?」
「ある」
「あれに乗っていけ!」
「うそだろ?」
「あれが最終便だ!何をしているいけ!」
「間に合わない!」
「早く線路を突っ切っていけ!飛び込め!」

わたしは列車がホームに到着してくるよりも先に線路に飛び込んだ。

「あなたもリシュケシュに行くの?」と彼女は話し掛けてくれた。

同じ列車に5時間も乗った後にハリドワードに着きまたバスターミナルで会う。

「ここで待っているとリシュケシュ行きのバスが来るようだよ」

わたしは何台もの停まっているバス一台一台に「これはリシュケシュには行くのか?」と聞いて回っている彼女に教える。

暫くするとボロボロのバスが定位置じゃない場所で停まる。
「あれだ」

リシュケシュまではハリドワードから1時間半掛かるみたいだ。
道々から望める景色は自然の広大さを教えてくれる。
緑多い山というよりは掘り返している鉱山のような白く鋭い山肌で
崖が崩れてこうなりました。という風だ。

バスは運転手に急いでいるのか?と聞きたくなるようなスピードで行く。
時折対向車に道を譲りながら、横入りするリキシャーに細かく速度を落としながら
緊張の空気が辺りを支配し多くの乗客は行く手を見つめて押し黙っている。

リシュケシュのバスターミナルに着いたバスは全ての乗客を降ろしその役割を終える。
このバスのチケット代をまだ払っていないのだがいいのだろうか。

一緒に乗った外国人女性はわたしをまた見つけると
「あなたはこれからどこに行くつもり?わたしと一緒に乗り合いしない?」と提案してきてくれた。
「あなたはどこの国から?そう。日本のどこ?本当に?」

アルゼンチン出身のルーシアはこれから古い旧友に会いに行くという。

彼女は旅慣れているようでリキシャーとの交渉も積極的にする。
「ねぇ。わたしの友達も連れて行って?ノーノーノー。2人でリシュケシュのブリッジまで。いくら?
ノーノー。高すぎるわ。オーケー100ルピーね。」

交渉がまとまるとリキシャーは走り出す。
「もしあなたがリシュケシュでヨガとホテルを一緒に楽しむなら反対側。もし分けるならインターネットで探すといいわ。
アスタンガヨガというところがいいらしいわよ?知ってる?
わたしはね。リキシャーに毎回腹が立ってるの笑」
「着いたぞ。」リキシャーが伝える。

「ここはどこなの?」ルーシアがリキシャーに問いかける。
「リシュケシュだ。」
「ブリッジは?反対側?ノーノーノー。ブリッジまで連れて行ってよ。」
「ここまでで2人で200ルピーだ。」
「そうじゃない。反対側まで連れてって。それで2人で100ルピーよ。」
「いいや。そしたら150ルピーだ」
「そんなことは聞いていない。100ルピーて言ったでしょ?」

このルーシアの流暢な英語でも言い合いになるということは
リキシャーとの度々ある喧嘩の原因はこちら側の英語力の問題ではないのだなと思う。

リキシャーは言ってもいないことを後から追加してくる。
もっともわたしがインド人だったらこの色白の外国人からいかに多くのお金を落としてもらおうか
考えるが、
「お金を落としてもらおう」という気持ちは何か欠けている部分を見つけてそこを埋めてあげ、対価を頂くというものだ。
しかし彼らの多くは「落としてもらおう」とは思っていないみたいで、
「どうにかお金を巻き取ろう」と考えるみたいだ。
行きたくもない高級ストアに立ち寄る。
ここまでで100ルピーだと自分ルールを押し付ける。
交渉の中に出てこなかった追加代金を要求する。

それからわたしとルーシアはリシュケシュを周ったり休憩したり多くの時間を共有してまたお互いの旅に戻った。

「あなたはフォトグラファー?そうなんだ笑。電車の中でカメラのお手入れしていたから笑大事よね。
わたしはレンズをクリーンにしておかなかったからカメラがダメになっちゃったの笑」

ルーシアとの出会いはその後の旅のし方を大きく変えた。
「あそこに行きたい」という「場所」をゴールにしていた今までが「ゴールは人だった」と気付かされた。
極端なことをいうと場所はもうどうでもよくなった。
もうここはあの出会い以外の感動は得られない。
わたしはビートルズも修行したというヨガの聖地リシュケシュに6時間以上掛けて来て、それを体験しなかった唯一の外国人かもしれない。

ルーシア

「お前はコレを知ってるか?」

7月15日インド北部を襲った大洪水はわたしがこの旅を始める前に起きた災害で
世界的なニュースとしてよく知っている。
今はあれから2週間程経っていて、
連日インドのテレビは被害状況を伝え、
新聞の見出しは大きな字体で紙面を埋めている。

わたしはハリドワード駅前にある床屋の待合い椅子に座りながらテレビを見ていた。
ニュース番組はいかに局地的な豪雨が被害を拡大させたかをCGで解説している。
従業員と散髪途中のお客はその手を止め、食い入るようにテレビに向きを直し、新たな情報としてあの悲劇を理解しようとしていた。
ヒンドゥ語が分からないわたしでもなんとなく見ていれば分かる。
山と川と街と気象状況がグラフィックな描画で表されていて、段階的に解説しているのでなんとなく入ってくる。
急激にできた雲がヒマラヤ付近の気象と相まって豪雨をつくる。
その大雨で起きた崖崩れが谷底の街を飲み込む。

やがて大きな洪水は人々の拠り所だった寺院を襲い、
最初は寺院が洪水を2つに分断させるのだが
やがて増水し、濁った土砂に覆いかぶさられた寺院が崩れ流されるシーン。

何度も見たであろうそのニュースを店内にいる皆で今一度見ている。

「わたしはこのニュースは知っている。有名だ。」
床屋の主人の質問に答えると、
彼は一旦ハサミに目をやり、「私も日本で起きた地震と津波の事は知っている」と残念そうな表情をする。

ハリドワードに戻ったわたしはニューデリーに戻りたくなった。
人間人間しいあの街に身を投じることでどんな日常生活が起きているのかヒアリングしてみたくなった。

列車まで時間がある。
わたしが床屋に入ったのは髪を切りたいからではなく遊び心からで
もしわたしのこの髪の少なさで床屋に入ったら一体どう料理してくれるのだろうという好奇心からだった。

流れているニュースの会話をしていると子供達が店内に入ってくる。
11歳ぐらいの背丈の3人で、長椅子の大部分を占めて座っているガタイのいい外国人に笑顔が消える。
彼らはまさかこんなローカルの床屋に外国人がいるとは思わなかったのか驚いたみたいだ。
安心させようとわたしが「やぁ。」とやると、
彼らはそれまで笑っていた内容とは別の面白さを見つけたような表情に変わり私の隣に座る。

「そういえば!」すっかりテレビに夢中だったわたしは主人に料金を聞く。
主人はハサミを動かしながら「100ルピー」だという。
それを聞いた子供達が笑っている。
わたしは子供達が笑っていることに違和感を感じ、
ふっかけてるのか?正規料金なのか?と思い、
形式的に「高いね!笑」とカマを掛けてみた。
それを聞いた子供達がいよいよケラケラしてる。

主人は髪を切りながらびくともしない。
わたしは主人に意地悪をしてみたくなった。
「わたしは髪が無いんだぞ?切る所がないのにその値段か?」
「笑。みんなその値段だ。」
子供達が腹抱えて笑う。

「他の人は切る所が沢山だ。見ろわたしの髪を。何もないぞ。それで100ルピーか?」
子供達がいいぞやれやれとはやし立てる。
わたしは聴衆に乗せられる。
「100ルピーの内訳を教えてくれ。」と困った客を演じる。
主人は笑いがらこたえる。
「髪が50ルピー。髭が50ルピーだ。」
髪と髭が半分半分はおかしい。
「見てくれ主人。俺には髪がないんだ。だから髪50はおかしくはないか?」
笑っているだけで値段を下げない主人と、子供達の笑い声、
わたしはこれでもかとブラックジョークをいう。
「you know,I love india! I hate Chaina too!」

聴衆の笑いは誘えたが値段は下げてくれない。
多分本当に正規の値段なのだろう。

0356

日本の散髪バサミは肌に当てる先は丸みがあるが、

インドのハサミは先が少々尖り過ぎているようだ。

0357

ちょっと血が出た。

これはなんだろう。

Img
駅構内にある電飾が賑やかな自販機のような物の前で眺めていると
たまに人がその上に乗って「ガッチャン!」と何やら起こった後
受け取り口から何かをもらっている。

0166

「体重計か」

受け取り口から重さが記載されたものが出てくるみたいだ。

わたしも乗ってみて2ルピーを入れてみる。

ガッチャン。

0178

何も出ない。

どうやらわたしは体重計からカツアゲされたみたいだ。

0182

ニューデリーを出た列車は窓から色々な衝撃を与える。

何も遮られていない線路。今走っている列車から3m程の距離で手を振る子供。
彼らのすぐ裏には雑草。奥には木材と瓦礫で作られた低い屋根の小屋。
ゴミ、牛、座ってをこちら見る人。

こうやって風景を眺めているとたまに大草原が現れる。
うっそうと茂っていて手入れされていないそこに人が立っている。
「あなたは今何をしているのですか?」と聞きたくなる。

列車は時折クラクションを鳴らす。
線路内にいるインド人がそれを耳にしてからゆっくり避ける。
もしこの国が「線路に人が侵入すると列車が停まる国」なら終日動かないだろう。

車内前方では給仕がミネラルウォーターと新聞を配る。
ミネラルウォーターと新聞。
ミネラルウォーターと新聞。
わたしも当然ミネラルウォーターと新聞・・・。

0186

なんで俺だけミネラルウォーターと汚い本なんだよ!

インド人は新聞好きなのだろうか、ネット環境が脆弱なインドでは新聞は貴重な
情報源なのかもしれない。

目線を戻すと線路周辺に遊んでいる人や、何をするでもなく歩いている人が多い。

彼らは通り過ぎるこちら側をずっと見つめている。
線路付近に住んでいながら毎回横切る列車に鬱陶しさを感じ、飽き飽きしそうなものだが、
彼らは列車が来るたびに表に出てきては
作業を一時停止したり、会話を中断したり、遊びをやめているようだ。
わたしは「乗りたいのかな?」と仮定してみる。
わたしはこの列車のチケットを500ルピーで購入したがクラスが低い席もある。
それらは100ルピーもあれば乗れるのだが、
今外にいる彼らの多くは大家族が大半で、それが移動となるとお金がかかり、
そもそも列車で移動する機会がほとんどないのかもしれないし。
わたしはニューデリーレイルウェイ駅構内で雑魚寝している家族を思い出した。

今外にいるインド人の多くは憧れているような眼差しで列車が通り過ぎるまで目で追っている。

車内では給仕が次にチャイのティーパックと紅茶のティーパック、ビスケット、マンゴージュース、ノンベジのライトミールを運んでくる。
さっきもらった水と既に持っていた水とチャイと紅茶とマンゴージュース。

0207

飲めるか!内臓溺れるわ!

外の風景はたまにもったいないぐらいの大草原が現れる。
背の高い雑草が生い茂っていてたまにその中に迷い込んだのかと思う人がぽつんといるのだが、
彼が何をしているのか分からない。
近くに重機はないし、何かしていた作業の形跡もない。
友達となにかの時間を共有している人もいる。

ぽつんと一人でもいる。

わたしは草原が現れる度にどこかに人がいないか探すようになった。
いた!!ほら、またいた!

何してるの?

0233

何してるの?

0235

ねぇ何してるの?

0237

あ、これは違うか。。。

給仕が食事を下げに来る。

「サー。もう終わりか?」

「それは?飲むのか?」みたいな顔をする。
「まだ飲む。」
「そうか。」

外は草原が現れたと思うと次には沼地に入る。
いつか観たネバーエンティングストーリーの全てを沈める「悲しみの沼」のような密林の間を列車は進み、
それが終わると雑草が始まり、瓦礫が始まり、集落が続く。

草原の中の人を探していると、急に窓の目の前に人が現れる。
こちらの速度に合わせて小さくなって見えなくなる。

0231

なんだろう。このデザインは。
さっきから多い。
広告なのだろうが、壁にペイントしたみたいだ。

車内には一人の外国人女性が反対側の席にいて、インド人男性とたわいもない話を英語で話していた。

わたしはたまに一眼レフのレンズをクリーニングして次の備えをしていた。

もうすぐ列車はハリドワードに着くみたいだ。

そしてその後わたしは車内にいた外国人女性と行動を共にすることになる。

0240

やっぱりおかしい。

わたしは部屋のベットに仰向けになり、
天井の塗装が剥がれ、根元がむき出しで折れそうなシーリングファンに注意を払いながら
ある不安に駆られている。
フロントにパスポートを預けたのだが返してもらっていない。
そもそもなぜ明日の朝まで預けなくちゃいけないのか。

なぜ一番大事なものが今手元にないのだろう。

まだある。
チェックインの際支払った料金のお釣りが返ってこない。
フロントは「あとでお釣りとパスポートを部屋まで届ける」というがまだ来ない。
4階の私の部屋に設えてあるベルをならしてもブザー音がなるのだが、
その音はフロント前で車座になってテレビに興じているインド人の耳に響いているが
おそらく無視されていて、
来ないということは「動きたくない」「あとでって言っただろ」のようなメッセージのようだ。

インド人の「あとで」は一体何時間後なのだろうか。

こうしてはいられない。

わたしはエレベーターもない暗くて急な階段を降りてゆく。

やはりわたしの事はわすれているみたいだ。

フロントの前ではTVが映し出すクリケットに集中していて、

ホテルマンともいえない、私服の近所の奴らが
「おいおい何か言ってるぞお前聞いてやれ」「どうした」と耳を貸す。
わたしが不安な想いを告白すると
「そうかパスポートか。おい!」とそいつの弟のような弟に声を掛けると「なに?」
と用件を聞いている。

ここのゲストハウスに泊まっている外国人はわたしだけの様な気がする。
二人はヒンドゥ語で暫く話した後
弟が「付いてきて」と引き出しからわたしのパスポートを出し
外に出た。
インドの奴らはとにかく外国人を連れて歩き回るのが好きだ。
一体どこにいくというのだろう。

弟はわたしのパスポートを片手に
なんの間を埋める会話も無くわたしがまだ知らない道を連れまわす。

ちょっとちょっと結構遠いな。どこまで行くのか?
尋ねてみると「あとちょっと」だという。

わたしはインド人の「後で」と「あとちょっと」は世界基準の「後で」「あとちょっと」ではないと感じる。
先程ホテル従業員全員でクリケットに夢中になっていたのを理解してるし、
彼らはクリケットの試合が終わったら、さてと・・で動き出し、そろそろ寝るか・・とその日を
終わらせようとしてただろう。

わたしのパスポートは今まさにインドの子供に強く握られていて、
彼はそれがどれだけ大事なものか理解してはいない。
インド映画の半券を持って外に出てきた感覚と同等な扱い受けている。

もし今このこの子が誰かに襲われたらと思うと
わたしはこの子を襲ってでもパスポートを取り返さなくてはいけない。

私はとにかくそれはわたしの物で大事なものだから一旦こちらに渡せ。
もし使うならそのとき提示するから。一旦返せ。
と打ち明けるとは渋々返した。

ゲストハウスからもう一人では帰れないくらい連れ回されて
着いた先は友達のお店のようなこじんまりとしたスタンドで、
エレクトロニックと書かれた所を見ると電気屋さんなのだろう。

友達にコピー取らせてくれのような言葉を投げると、IDを見せろという。
子供がぶら下げていた認証カードのようなものを提示すると
「何枚だ」とやり取りする。
サムスン製のコピー機が動く。
子供はわたしのパスポートのビザ部分をコピーするとその用紙を持ってホテルにもどる。
わたしはそれを追う。
コピーする場所が近所に無いからここまで来なくてはならなかった。
だからパスポートを預けろということだったようだ。
コピー機ひとつ近所に無いのも驚くが、滞在者のパスポートがこの館内だけで処理されず
子供の手によって知らずに移動されているのが怖い。
もしなくなったらおよそ「預けたお前が悪い」と言われるのだから今後どこにも預けられない。

ゲストハウスに戻り子供がわたしのパスポートのコピーを別の男にわたす。
何言っているか分からないがもめている。

子供はふてくされてソファーにどかりと座りテレビを見る。

別の男がわたしに伝える。
「これはクリアーに写っていない。もう一度取る必要がある。
もう一回行く。場所は今度は遠い。
パスポートを預ける必要がある。パスポートを貸してくれ。」
「それはできない。もうそれでいいじゃないか。」
「いやダメだ。この子がまた行く。今度は駅まで行く。」

「駅?遠いよ!俺も行く」
「じゃあこの子の分お金を払うのか?」
「なんでだよ!一緒に行くだけだよ」
「一緒に。タクシーで行くのか?」
「行くけどこの子の分は払わねーよ。じゃあ俺がCHECK OUTの時に一緒に行こう」
「ノーノー。今行かなくてはならない。」
「なんでだよ。」
「なんでって、こんな薄いコピーじゃ読めないだろ!」
「しらねーよ!」
「この子が行ってくるからパスポートをよこせ!」
「よこさねーよ!」
「じゃあお前一人でコピーを取って来るのか?」
「なんでだよ!」
「なんでって、ビザのここの部分が薄くなっているからだ!」
「しらねーーての!」
「この子が行ってくるからパスポートをよこせ!」
「よこさねーよ!」
「じゃあお前一人でコピーを取って来るのか?」
「チェックアウトしたら取って来るわ。」
「さぁ行け!」
「なんで今なんだよ!」
「今コピーが必要なんだ」
「じゃあ一緒に行くから」
「一緒に行くんだな?じゃあこの子の分もお金を払え」
「なんでだよ!」
「なんでって、ビザのここの部分が薄くなっているからだ!」
「だからそれはしらねーって!」

わたしはこの輪廻のようなやり取りから解脱するためにお構いなしに部屋に戻った。
明日は朝5時に起きてリシュケシュを目指す。

この鍋は何を沸騰させているのだろう。
チャイか。

わたしが先程「200ルピーのゲストハウスはここら辺にあるか?」と適当な男に尋ねると男は心当たりがあるのか「こい」と無愛想にいうとわたしがついて来ているのか確認もせず進んでいく。

狭い道をどんどん進むのでわたしは抵抗も込めて立ち止まり、チャイにカメラを向けていた。
暫く眺めていると前をいく案内人の男は「珍しいのか笑」と心行くまで見ればいいと顔で教えてくれる。
そして訝しげにわたしを見るお店の男に「珍しいんだよ笑」と言う感じで伝えたみたいだ。
お店の旦那は笑顔になり「どうだ?一杯ほしいか?」と促す。
わたしは「いやいや大丈夫」と、
「そんなお気遣いしていただけなくても」というような表情で、
「こんな不衛生なもの飲めたもんじゃない」という心で断った。

何故このような日本で言うビルとビルの隙間のような場所で、
土埃舞うであろう膝下で作るのだろう。
作るだけでは飽き足らず勧めてくるのだろう。
チャイという飲み物は「汚い場所で作った方がおいしい」と言われているのだろうか。

男は建物の前でたむろしている友達と思われる奴に「なぜ今外国人を連れているか」伝えているみたいだ。
そして「ちょっとこいつと話してみてくれないか?」と英語のできる友達をわたしに紹介する。

男の友達に「200ルピーで泊まれるゲストハウスはここら辺にあるか?」と同じ質問をすると
「500ならある」という。
わたしは「あの男が『200がある』というから後をついてきた」
と苦情を申し立てる。

友達は「ここら辺一帯はその料金だ」
と仲介人が無知だった事をお知らせする。

わたしは「分かった別の奴に聞く。」
とカマを掛け「バァイ」と歩き出す。

友達はわたしを見送るが、ここまでわたしを連れてきた男は
「おいおいどこに行く。」
と追ってくる。
「ちょっと待て。わかったわかった。付いて来い。」

今度は本当にあるのか?

アラカシャンロードは比較的中級ホテルが建ち並ぶ。
それらの多くは9階建程のある高さで、
ネオンサイン看板のホテル名が
ここに訪れた外国人に自分達の居場所を教えているようだ。
またそれは一方で装飾された電球が品に欠ける色を落とし、
「隣りのホテルより目立ちたい」という想いがこの通りをうるさくしているようでもある。

ホテルの正面出口にも特徴がある。
どこもガラス張りで、それは出口だけにとどまらずフロントの様子が全て外から分かるような範囲まで及んでいる。
フロントが外国人のチェックインで賑わっているホテルは「人気があってサービスもいいのだろう」と好印象を与えるが、
他の多くのホテルは閑古鳥が鳴いていて、電気節約なのかフロントが暗く、
フロントマンというよりは「暫くここに立ってて誰か来たら教えろ」と言われているような子供が、
ソファーに座りインドのドラマに心を奪われてる。

アラカシャンロードですれ違うインド人をわたしを見る目も気になる。
この暗さでも彼らは瞬時にわたしを「外国人だ」と凝視し、
ある者は足を止めて暫く眺めたり、あるものは隣に「ほら見てみなよ」と情報提供し、
ある者は話しかけてくる。

その中でも目が合いこいつが一体何者なのかを理解しようとしている時
人は焦点は合ってはいるのに何か思考は停止しているような目をしている。

わたしは「ハァイ」と挨拶をする。
「外人、悪い奴ではない、あなたに呼びかけてる」という情報を与えるのだが、
彼らは振り絞って出た一滴のような「ハァイ」だったり、
待ってましたの「ハァイ」だったり反応はさまざまで、
中には「ハアイ」
とただ停止した思考の上に「ハァイ」を置いただけような人もいる。

インドの道は主要道路から一歩外れると総じて歩道と車道の区別がない。

ガードレールなどもちろんなくて歩行者はリキシャーにはねられたら「お前が悪い」といわれるのだろう。

砂は舞い上がるほどの軽さで、

何かの工事があり道が舗装されたのではなく、
多くの人が往来したことで平らになったのかもしれないと疑うことができる。
端のほうには行き場の失い未処理のまま忘れられている瓦礫や燃えるゴミ、ヘドロ等が積まれ
、全てが土に返る、違う奴の仕事だ、と無関心のようだ。

「ここのゲストハウスはどうだ?」男が伺う。
わたしは「200なのか?」と聞く。
「400だ。」
「200じゃないのか?」
「200はここら辺に無い」
「お前はさっき500しかないと言った。今400があった。300もあるし200もあるだろ笑」

400も200も大した差は無く問題ないのだが、
今後の7日間の為に
この国がどういう仕組みで値段を設定しているのか確かめなければいけない。

彼らは仲介人とホテル側でその都度交渉しているみたいで、常に料金は変動しているようだ。

わたしはこの「無い」というのはあなたが知らないだけなのか、あるけど遠くて守備範囲ではないのか、
はたまた本当に無いのか、あるけどフロントとの交渉に負けているのか、

確かめなければいけない。

男は「こい」とまた歩き出すと
知り合いの友達がやっているような唐突な感じでもう1つのゲストハウスに入っていき、
また暫くしてフロントから外に出てくると、
「ここはどうだ?」と勧める。
「いくらだ?」
「400だ。」
「200で探していると言ってくれ。」
するとなにやらヒンドゥ語でフロントと話し始めた。

照明に舞っていた蝿が私を見つけ弧を描き始める。

「350でどうだといっている。」
「わかった。ありがとう。ちょっと別の奴に当たってみる」
「ちょっと待て!フレンド!どこに行く?!わかった!付いて来い!」

この小出しにするのはなんだろう。
料金は下がるではないか。

わたしはこの交渉人が頭に「200」(ツーハンドレッド)が浸透していないと判断して
ちゃんと認知させるように「『200』と言ってみてくれないか?」と頼んだ。
男は「200」という。
わたしは「そうだ200だ。」とよくできたという。
「200。」
「そう。わたしに続いて200と言ってくれないか?200!」
「200笑」
「200!」
「200」
「200~♪」
「200~♪」

「200~♪」
「200~♪」
わたしが「ツーハンドレッド」と言うと「ツーハンドレッド」が返ってくる掛け合いが続き、
なんだか楽しくなってきた。
これで分かっただろう。
必ずや次は200のゲストハウスに連れて行ってくれる。
ツーハンドレッド君も楽しくなってきたのか笑っている。
「ここだ。ここがそのゲストハウスだ。」
そういうと、ツーハンドレッド君が交渉を終えて出てきた。

「ここのゲストハウスはどうだい?」

「いくら?」

「スリーハンドレッドだ。」

ツーハンドレッド君の顔をしたこいつは実はスリーハンドレッド君だったようだ。

0125

4時40分起床。
窓から吹く風が汚い麻カーテンを揺らす。

どうやら興奮しているせいか深い眠りにはつけなかったみたいだ。

この部屋は残酷だ。
部屋の鍵はいわゆる南京錠式なのだがドアとそれを受ける部屋のツガイ部分が
合わない。
また扉は扉で始末に終えない。
どう設計したのか、丁度引き戸がサッシのレーン部分と摩擦を起こして閉まらないように
押し扉もなにかの抵抗で隙間を残す。
丁度ジャックニコルソンの顔1つ分の隙間を残すから怖い。

わたしはこの盗人に親切な部屋に注意を払う必要があるみたいだ。

シャワーを浴びる際は万が一誰かが勝手に入ってきても対処できるように
その扉を開けておかなければならない。

丸型パイプ椅子をシャワー室の目の前に移動させてその上にザックを置く。
常に見張れる場所に位置させて注意を払わなければならない。

シャワー室にはバスは付いておらず、
その床は部屋とフラットな高さにあるため落ちてくる水滴が弾けて部屋を濡らす。
しょうがない。
どうせこの暑さで乾きも早い。このような仕様なのだからこういうことだろう。
体を流した今日の汚れは何かに導かれて排水溝に向かうわけでもなく、
ただ足元に浮遊して溜める。

石鹸は固くて泡立たない。
砂消しゴムのようなそれを今日着ていたシャツにこすり付けて洗う。
適当に干しておけばすぐ乾くはずだ。

窓から外を見下ろすと
人々はまだ寝ているようで街は動いていない。

0127

わたしはこの動いていない街で動いている自分に優越感を感じることがある。
誰も知らない時間を知っている自分。
それはインドが朝早く起きた自分に秘密を教えてくれるようで、
ホテルの前はそう思わせるぐらいのオレンジ色の温かい光を残して朝を待っているようだ。
時折横切るリキシャーは道路で寝ているインド人を起こさないように通り過ぎて行く。

わたしは6時30分ニューデリー発ハリドワード行きの鉄道に乗らなければいけない。
そしてハリドワードからバスで乗り継ぎヨガの聖地リシュケシュへ。
今夜はリシュケシュで泊まることになるだろう。

散らばった荷物を大事なもの、
宿泊する部屋に着いたら出すもの、頻繁に出すもの、すぐ必要なものと区別して
まとめる。
4階の部屋からフロントまで降りる。
食べ終わったタリーの皿が階段に置いてある。
もう何ヶ月も片付いていないであろう空のペットボトルが階段に置いてある。
そういえばこのゲストハウスで外国人は見なかった。

フロント前は真っ暗で、外から漏れてきている光でなんとかその様子が分かった。
ゲストハウスの従業員、従業員といえない、ここをを営む家族はフロント前で舟を漕いでいる。
彼らは満室の場合に備え、フロント前で寝るのが習慣になっているのだろう。

わたしは起こさないように、出ようとすると気配に気付いた眠りが浅い少年がわたしに気付く。

防犯の意識はあるみたいだ。
少年は眠気眼で立ち上がり、棚にある分厚い宿泊者の帳簿を出すとカウンターに広げ「ここにサインしろ」という。
「お金は?」と言われ「払った」というと確認もせず、そうか。まあどっちでもいい。みたいな顔をしてまた寝床に戻る。

駅に向かう途中話しかけてきた2人組がいた。
彼らは「こんな朝早くどこに行くんだい?チャイでも飲んでいきなよ。」とバンの荷台から呼び込む。

0143

0145

わたしはそこに座ると「どこから来たんだ?」「どこに行くんだ」「結婚はしているのか?」等に答えながら頂いた。
「毎朝飲んでいるの?」
「毎朝だよ。」

陸橋の下では山積みの新聞が置いてあり、

0154

それを少年が細い自転車の荷台に積み、ハンドルを握りペダルを漕ぐ。
公衆の蛇口前には男が群がり体を洗う。
クラクションの音も増えてきた。
街が動き出している。
この国の匂いは今朝もする。

動き始めた街の中に腰を下ろしているとそれに呼応するように興奮してくる。
全て真新しく、興味を引かせる。
腐ったバナナを売る奴が荷台を引き、

0150

リキシャーが路上で寝ている奴に当然のクラクションを鳴らす。
物や人を運ぶ人々が往来する。
今日も何もしないインド人が「朝だから」の理由で外を歩いている。

0147

わたしはそろそろ行かなくてはならない。

「名前は?」
「●□%&%!#”!」
このガッシャンガッシャン鳴り響く車中で今一度わたしが名前を確認すると、
「そうだそうだ。」当たっていると
運転手は後ろを振り向いて笑いながら教える。
「危ないから早く前を向け」

リキシャー運転手は「ファサイ」という。

「降りろDTTCオフィスに着いたぞ。」

ここが?
「ここが政府公認観光インフォメーションオフィス?公衆トイレじゃなくて?」

もしわたしが「漏れそうなんだ。」「この近くにトイレはないか?」
と緊急避難を訴えて、ここで降ろしてくれたらファサイにチップでもあげただろう。

ファサイは「ここが政府公認のオフィスだ。」と暑いインドで、涼しい表情しながら言い張る。
わたしがイメージのギャップを埋めようと雰囲気から感じ取れるものを探していると
「アイツに尋ねてみろ」と背中を押す。

ヒンドゥ語で書かれた看板が見下ろす門の中を行くと
更地に何人かの汚いインド人がたむろしている。

わたしは奥にある『トイレ』のようなオフィスの前で手招きするターバンまで進み
「ここはDTTDCオフィスか?」と尋ねた。
「ア?」と眩しいものを見るような表情で何を言っているのか分からないというような顔をする。
わたしがもう一度ゆっくり伝えると
「そうだ」という。
汚いターバンは斜め向こうにある要人を守衛する交番のような小屋を指差して
あれがそうだと教えてくれる。
そして「わたしがオフィシャルな事務員だ」、「なんでも聞け」と空の下で簡易的に始まる。

わたしはこの旅でまず最初に訪れたいと思っているヨガの聖地リシュケシュの事を聞く。
「どこから来たんだ?日本?そうか。どこに行きたいんだ?リシュケシュ?
リシュケシュまで500Reだ、エアコン付きか?OK。そしたらSEで800Reだ。俺を信用しろ。」

わたしの政府公認オフィスのイメージといえば、もちろん屋内で、大きな机を挟んで、パンフレットを提示されながら話し合い、
辺りは大きなインド全土の地図、時刻表等数字が示された提示物が壁を埋め尽くし、外国人が話を聞きたくて順番待ちをして混んでいる、
なのだが、
今わたしは更地でちょっと臭いトイレのような小屋の前で、段差というよりは埋めた石材が何かの拍子に地面から姿を現したような場所で立ち話をして、
辺りは汚い浮浪者が往来し、汚いターバンおっさんの物知りを披露されている。
そして「俺を信用しろ」という。

公的な機関が「俺を信用しろ」と言うだろうか。
もしここが外国人向けインフォメーションオフィスならなぜ外国人が一人もいないのか。

そしてここのどこを見渡しても「DTTDCオフィス」とうたっていない。
「ここは違う。」

わたしは話を聞きながら次にどうここから離れるか頭をめぐらせた。

頷くトーンが低くなり、質問に消極的になったわたしに汚いターバンは
「お前とはこれ以上話ができない。なぜなら信用していないからだ。」と
当然のセリフを吐いた。

汚いターバンはわたしの目をじっと見て本音を見透かすと、
くしゃくしゃの何かをポケットから取り出し何か薄いピンクの紙をこれが目に入らぬかとばかり差し出す。
それは「クロネコヤマトの伝票」だった。

なぜ汚いターバンがこんなものを持っているのか、
今なぜわたしはこれを目の前にしているのか
「ちょっとそれを見せてくれ。」「ほら。よく見ろ」
よくみると驚いたことに2009年3月京都西京区~と書かれているが、
名前は森田~さんで女性の名前。

このシュールな状況と同姓という偶然に思わずカメラを向けると、
汚いターバンはノーノーノ!!と制する。そして「もういいだろ。」という感じでくしゃくしゃに折りポケットに戻すと
「な?これでわかったろ?俺は信を置いていい人物なんだ」
と、なんとも信の置けないパフォーマンスの収束を計る。

「オケーオケー。バアイ。」と出口方面に向かおうとするわたしの背中に
汚いターバンは「なぜだ!なぜ!これを見て(ヤマトの受領証)なぜ信じないんだ!」
「もう一度これをよく見てみろ!」と訴える。

「待て待て!しょうがないな。」
こうなったら汚いターバンも生活が掛かっている。

どうにかこの日本人に列車のチケットを買ってもらわなくてはいけない。
汚いターバンは「見ろ、身分証書だ。ほらここに。わかるか?わたしの名前と、DTTDCって書いてある。」
赤い縁で囲われた自己紹介カードをお行儀よくラミネートしただけのような証明書は
わたしに「こいつは偽者」と証明してくれるには十分で
今の所「お前は誰なんだ」「ただの汚いターバンじゃないか」といよいよ縁を切りたくなる。

わたしはヤマト受領証と自己紹介カードを見にここに来たのでない。

汚いターバンは
「あとちょっと待ってろ。これだ。」

「これが列車チケットだ。私の父親が乗ったんだ。見ろ。ここに父親の名前が書いてある。」
どこの外国人がヤマトの受領証と自己紹介カードと使用済み切符のコンボ技で
「おお!使用済みの切符じゃないか!お前とは今後言い関係が築けそうだ!」と肩を組み、「チャイでも飲みに行くか!」となるのだろうか。
わたしは今の所汚いターバンのポケットから出てきたゴミしか見ていない。
汚いターバンは失望中のわたしの目を見て
「いいか?リシュケシュに行きたいんだろ?そしたらニューデリーからハリドワードにいく。5時間だ。
ハリドワードという場所からバスが出てる、そうだな・・1時間だな。写真?ダメだダメだ!写真はダメだ!見ろ!私の目を、信じろ!」

わたしは上手に「さようなら」を告げ、踵を返すと、
汚いターバンはわたしには分からない自国の言葉で罵声を浴びせた。
「なぜだ!お前は強情だ!なんて奴だ!」
どんな言葉を吐き出してるか分からないがそんなところだろう。

その語気がそういっていたし、

なによりわたしには通じない言葉を発することが悪口の証拠だ。

大通りまで行くとファサイは停まってわたしのことを待っていたみたいだ。

わたしはファサイに「ここはDTTDCオフィスじゃない」と事を告げる。

「時間が無いんだ。本当のDTTDCオフィスに連れて行ってくれ」
と訴える。
すると彼はエンジンを回し、「乗れ」という。
「あんのかい」つい日本語が出てしまう。

このファサイはそもそも何をしてるのだ。
なぜ一回嘘を挟んだ。
なぜDTTDCオフィスに連れて行かないのだ。
そして今こうしてなんの悪気も無く、臆面も無く、時間だけはあるみたいに運転する。
初めて乗せたかのようなリセットされた感じで。

そもそもわたしはなぜマップが必要なのか。
なぜコンノートプレイスまで取りに行ってるのか。
なぜヤマトの受領証を見せられたのか。

「着いたぞ。DTTDCオフィスだ。」

確かに。確かにここがコンノートプレイスという複合商業施設郡付近だということは記憶している。
競技場を観客席が囲むようにそこは芝生の起伏や大きな噴水がある憩いの場を外資系のお店が囲んでいて、
周辺は旋回するような道路網で、
ここにたどり着くまで緩やかなカーブを描いてきた。
だからコンノートプレイスには到着したのだろう。

「これがDTTDCオフィス?」

目の前で「さあ入れ!」というファサイ。
わたしは外に灯りも漏れてこないすりガラスの向こう側に不穏なものを感じ、
まるで潰れる直前の建築事務所のような廃れた店舗を前に断定した。

「ここはDTTDCオフィスじゃない。」

ファサイは「さぁ入れ!入れ!マップが欲しいんだろ?さあ入れ」
と中に促す。
「だれがこんな怪しい所入るか!」

確かにDTTDCと扉には明示されている。
ただそれは簡単で頼りないDTTDCという禿げた塗装文字

わたしがカメラを向けると「写真はダメだ!」
軍事施設でもない、主要駅でもないのにノーフォトという奴は怪しい。
後で証拠が残るからだろう。
そしてやはり外国人がいない。

DTTDCオフィスとは本当に存在するのか?
心ここにあらずのわたしはファサイに別れを告げ、

暫く気持ちを落ち着けるため猫のように当ても無くここら辺を歩く。

一度整理しなくてはいけない。

受身の行動をしすぎた。

本来の目的は「駅の逆側に行きたい」だったはずだ。

「お前はフォトグラファーか?気をつけろ!ここでレンズを交換するのは止めた方がいい。タバコを吸う奴が多いからね。カメラを台無しにするぞ?」

ここまでの経緯を知らないレモン水屋の細めの男が親切心で気遣ってくれる。

「ありがとう」

わたしはこの旅中に「DTTDC」とは何なのか暴かなければならない。

わたしはニューデリー駅にもう一度戻る

そして「もう『インド』は始まっているんだ。」と肝に銘じた。

ダウンロード style.css (14.3K)

この見覚えの無い風景はどうやら反対側で下ろされたみたいだ。

ニューデリー駅周辺は東京駅のそれのように「反対側」に行くにはそれなりに回り込まないといけない。
わたしはとにかくメインバザーの方に行きたかった。
それは以前訪れた際に歩き回った方面だったからで、
よく知っていた。
バスを降りたわたしはまず異国の地で知っている場所に身を落とし心を休めたかった。
そして今バスから降りて、
また新たな所に飛び込んだ事で「日本人だ」という異質を見る視線から
金目的のナンパの気を削がす様に振舞わなくてはならない。
それはどちらの方向が何かも分からない状況でまごつかないことだし、

上を眺め途方に暮れたりすることを避けることで、
わたしには「どこでもいい。どちらでもいいから自信を持って歩くこと」が求められた。

程なくして着いた構内は人々がごったがえしている。

豪雨が過ぎ去った曇り空から申し訳程度に光が射し込む。
照明もついていないここをわずかに映す。

そしてこの寝ている人達の数。
もしわたしが初めてインドを訪れたとしたらこの無秩序で、

一見何もかも放免された「フリースペース」に圧倒されただろう。
人々はこの体育館の半分もない駅出入り口付近に
大災害が起きた後の避難所のように横になり床を埋めている。

あるものは熟睡して動かず、またあるものは目を見開いたままただじっと横になっている。
興味深いのはその手のやり場で大きく開いていたり、胸に当ててたり、甲をおでこに乗せてたりそれぞれ唯一の寝方をしている。
彼らは気休め程度に何かの絹を床に敷き、不浄と区別しているようだが
床に寝ることは抵抗はないようだ。

場内に電光掲示板が今夜来る鉄道名と乗り場と時間を知らせ
アナウンスは大きな電子音を鳴らすと
「アテンションプリーズ」の後にそれらを読み上げ
それは鳴り止むことが無かった。
彼らは鉄道を待つ間体を休めアテンションプリーズを無視し続け寝ていた。

暫く構内を眺めていると男が来る。
誰もがお偉いさんと分かるベージュの制服に長身、お堅い帽子を被り、紋章を付けている。
胸まである棒を床にコッツンコッツン突きながらやってきて端のほうで寝ている人達を眺める。
鉄道警察は「ここはダメだ」と禁止区域で横たわる人々を

持っている棒でまるで大きな埃を端に追いやるように掃き、
それでも起きない奴の素足は棒でコツコツ突く。
起きたのを確認すると何を注意するわけでもなくまたコツコツしながらゆっくり向かう
今強制的におはようした男は「来ちゃったか。」のような表情をし
そこから去るわけでもなく、しばらくまた寝ようか、
起き抜けに雨上がりの外を眺め始めていた。

ニューデリーレイルウェイ駅には改札は無くホームと構内を仕切るものは
ちょっとした鉄格子の入り口だけだ。

わたしが「メインバザー」に向かうため駅構内を突破しようとすると(後々突破する場所が違う事がわかったのだが)
男が「待て待て。お前どこに行きたいんだ?逆側?ガイドブック持ってるか?何?持ってない?マップは?ない?ちょっと来い!!」
とわたしを強引に手招きして歩き始めた。

男は横たわる無数の自国民を踏まないように私の前を歩きロータリーを歩く。
リキシャープールの先頭待ちの近くで立ち止まると
「いいか?お前はまずコンノートプレイスに行って地図をもらうんだ。そうした方がいい。
ここがDTTDCオフィスだ。わかったな?」と自前の地図で乱暴に指し示す。
「プライベートリクシャーは値段が高すぎる。ここのリクシャーで行け。料金?10ルピーだ。10ルピーでコンノートプレイスまで行ける。わかったな?よし。」
とずーっと言うことを聞いてこなかった分からず屋に懇々と諭すように教える。

そして「駅の反対側に行きたいだけ」という本来の目的である私の意思に反して「おい!」と客待ちしていたリクシャーを呼び綿々と交渉する。
「こいつをコンノートプレイスのDTTCオフィスまで連れて行ってやれ!10ルピーだ」
頭ごなしに言われたリクシャー運転手が「ちょっと待ってよ。なんで『10』で行かないといけないんだ!」という表情で「20だ!20にしろ!」と反発する。
男は「いやいや、10で行けるだろ!10で連れて行ってやれ!」と跳ね返す。

いい負けたリキシャー男は「わかったよ」と渋々エンジンを掛けるとこちらの顔も確認せずに「さぁ乗った乗った」と弱々しい手で中に招く
4輪自転車にモーターを付け、椅子というよりは座れる所を設えたような、それらを黄色と緑色のビニールで覆ったリクシャーが動き出す。

後にこの判断が誤りだったことになる。

ガンジー国際空港到着口を出たわたしはニューデリー駅を目指す。

ローカルバスは電柱に「CityBus」と書かれていてニューデリーまで75ルピー(150円)。

「いいか?ニューデリー駅に行きたいんだな?ガバメントタクシーを使え。(政府公認のタクシー)すぐそこだ。」と助言するものもいる。

外国人を乗せて法外な料金を請求することが横行しているインドでは予め公的に決められた値段を第三者に払い、
そこから手形を発行して、ちゃんと安全に目的地へ着いたらそれをタクシーに渡す制度がある。
お金のやり取りはしない分もめることが少ないと聞くがその分割高なのだろう。

男の忠告を無視してわたしは一番安いローカルバスに乗ることにした。

外国人が乗り込むのが珍しいのか既に車内にいるインド人が「あ。外国人だ」となるのが分かる。
じっと見ている。見られている。

目が合ってもじっと見てる。
わたしもじっと見つめる。

そして「ハァイ」とやる。
向こうも「ハァイ。」とやる。

何を思うのだろうか。

市街まで行くのをいいことに土嚢袋のような袋を車内に置き、

出ては入って積んでゆく男がいる。

外国人を外国人と確定した皆さんのわたしへの好奇心はそちらに移る。

「これはすごい雨だ。。」

この豪雨の中ワイパーを動かさないでバスは走り出した。
バケツをひっくり返したような雨が1時間に30mm~50mmだと聞いたことがある。
もし今「ニューデリー駅に着いたぞ。」と言われたら目的地を変えてでももうちょっと乗るだろう。

行きの飛行機で隣だったインド人の言葉を思い出す。
「インドは何回目だ?そうか。一番暑い時期に来たね?笑 そうだよ。日中なんか46℃だからね。笑」

日中暖められた気温が上昇気流を作ったのだとしたらこの雨を見る限り今日は相当暑かったのだろう。

わたしは「今日いっぱいこの雨は降り続くのか?」と音楽を聴いていた男に尋ねた。
男はノキア製のスマートフォン(そんなに小さいスマートフォンがあるのか。と驚いた)を片手に
「わからない」という。
雨がどうなるのか分からないのか、英語が分からないのか、

どのような音楽を聴いているのか、わたしには分からなかった。

この窓に横殴りに打ち付けるのような豪雨を見て

わたしは「この外国人何するんだ?」という視線を浴びながらリュックの中身を整理した。

この地球の終わりみたいな雨の中、外に出されたらリュックの中は濡れる。

電子機器を奥のほうにしまい、首から提げたカメラはTシャツの中に入れ我が子のように守る。

わたしは「やはりウインドブレーカーを持ってくればよかった。」と前回役に立ったことを今思い出し、

同時に「雨よ。早く止んでくれ」というよりは「バスよ。頼むから今はニューデリー駅に着かないでくれ」と願った。

路側帯には捨てられた無数の包装紙や牛の糞が水溜りの上に浮んでいる。

その汚泥は得体の知れない何かを含み、形をいびつにして、深い灰色の汚水の上に浮かび、随所にある陥没した箇所や、側道に溜まり、それはこの先道々続く。

先程の豪雨であたりは水浸しになっている。

ニューデリーを支配する空気は10mも歩けば違う匂いが漂っている。
暫く清掃されていないトイレのようなアンモニア臭、
フライパンの中で豆とマサラを和える臭い、

すれ違ったサイクルリキシャーのシャツに弧を描いた体臭、

鼻を突く行き場のないヘドロ臭、

踏まれた上に干からびコンクリートと同化した牛の糞の臭い。

決して換気されることのなく、友達の家の匂いのような日常に染み付いた臭いにわたしは「そうそうこんなんだった」と懐かしさを感じた。

誰かがわたしに投げ掛ける「where you going?」も歩を進める毎に変わっていく。
「Hello!」「Hey!japan!」「gesthouse?」「Are you HOTEL?」
わたしはこの国の臭いも、誘い文句も「いらない」「もういい。もういい。」という意思を示しながら歩いていた。

なぜなら先程早速騙されたからだ。

わたしは「やっぱりだ。この時間はなんだったんだ。」と自分の気の緩みを猛省した。

そして「もう『インド』は始まっているんだ。」と肝に銘じた。

ニューデリー駅周辺

ヒンディー語
ヒンディー語

今回のインドは英語抜きで過ごすつもりです。

何かを失うとその分入って来るものです。

こちらがコミュニケーションの手段を失った時

生きるために使う言語の吸収力は物凄いものがあります。

それは実感済みです。

今回もまたそれに期待しようと思います。

台湾に行った際実際に中国語を覚えるためにやった方法なのですが、

「どのように発音するのですか?」という文だけ覚えるといいんです。

それだけ書ける様にすぐ言える様にして、もしくはページにしおりでも挟んどいて、

例えば現地の人にヒンドゥ語で「駅はどっちですか?」と本に書かれてるカタカナを棒読みして道を尋ねるとします。

すると一回では伝わりません。何回棒読みで読んでも伝わりません。

相手は「どれどれその本を見せてみろ」となります。

すると「あ~『駅はどこか』尋ねているのか笑」となります。

駅の順路を一通り教えてもらった後、

先ほど覚えておいた「これはどのように発音するのですか?」と聞いてみるのです。

すると、最初は「え?今度はなんて?」とまた本を取り上げられるでしょう。

すると「あー!発音を聞いてるのか?笑熱心だな!笑」になって、

先ほどの「駅はどこですか?」の正しい発音がもらえます。

先生になった現地の人と生徒になった自分とで

正しい「駅はどこですか?」の発音をもらえるわけです。

で、グッド!がもらえます。

そのような事を他の質問文でもくりかえし、使える会話文と単語を増やしていきます。

発音は相手が違うと伝わらないことがあるので何回も同じ会話を違う人に試してみるといいです。

自分の発音が良くなったら相手の言っていることも分かって来ます。

本のサイズはポケットに入るぐらいがいいです。

簡単に出し入れできて、「いちいちのストレス」がなくなります。

この本のシリーズはよくまとまってて、単語量も多いし現地の知識も豊富なのでお勧めです。

「ひとり歩きの会話集・ヒンディー語」JTBパブリッシング 1300円

この覚え方なんですが絶対英語を使わないという決意が必要です。

たとえ相手が日本語を話せたとしてもです。

英語を使うと「なんだ!話せるじゃん!」みたいな感じになって、その後相手は英語で会話してこようとします。

そうすると勉強になりません。

最初はどんな単語もいちいち本で調べながら話すので会話になりませんが。

ちょっと今回もやってみます。

多分インドでそれをやると人だかりができて、大変でしょう。

一連のレクチャーが終わったらお金をせびられるでしょう。

腹が立ったら英語で汚い言葉を使うかもしれません。

心折れたり暑い中それどころじゃなかったら早々にやめるかもしれません。

どうなるか分かりませんが挑戦してみたいと思います。

ひとり歩きの会話集
ひとり歩きの会話集

dsc_0014
どれどれ・・・。(暫く本を眺めて)

今回はやめとこうかな?いいよね?