「何してる!あれだ!!早く線路に飛び込め!」
わたしは駅員に急かされると衆人環視の中線路に飛び込んだ。

アミ、アメベス、セミはわたしがハリドワード駅前で腰を下ろしていると隣りに座ってきた少年達で、
14歳ぐらいに見える彼らは「come with me!!」とわたしを連れ出した。
駅構内に入っていくと、
わたしは何かを見せてくれるのではないかと期待した。
英語が話せるアメベスは案内しながら「日本人か?」と尋ねてくる。
彼はそれを友達に伝えると次の質問を仲間から受け取り
「どこに行くんだ?」「インドは何回目だ?」と始まった。

どうやら首から提げている一眼レフに興味があるみたいだ。

足早に前を歩く3人と暫くいくと彼らは急に立ち止まり、
何事か話すと、
意見がまとまったみたいで「ちょっとそこのベンチに一回座ろう」とわたしを促す。
ベンチに4人で座る。

「なんなんだよこれ!」

付いて来い!と意気軒昂にいうぐらいだから
何かあるのかと思ったら。
彼らはわたしを連れ出しどこかに入ろうとしていたのかもしれない。
「やっぱ外国人だからダメか。。」と何かがキャンセルされたみたいだ。

無邪気な少年3人が日本人を挟んで座っている。

わたしは暫く話をして
名前を覚え、何をするわけでもなく出会いの時間を過ごした。

目の前にニューデリー駅構内で見た体重計がある。
英語が話せるアメベスに「これはどのように使うのか?」
と聞くと体重計の乗り方を教えてくれる。
「まず乗ってからお金を入れる。暫く待つと出てくる」
「これをニューデリーでやったら出てこなかったよ?」
「乗ってから乗ってから入れるんだよ。入れてから乗った?」
「入れてから乗った」
「そりゃ出てこないよ笑」
乗ってみる。

「86kg」

「あ、そうだ。荷物だけの重さを量りたいんだ」
彼らはもう一度やり方を促してくれる。
「16kgか。そりゃ重いわけだ。。」

わたしは外国人らしく目に付いたもの全て質問をしてみる。
彼らにしてみれば「そんなところ気になるのか!」と面白がれるだろう。

「あれは何だ?」
「WANTEDだ。」
そうなのか。。。
「間違えた。Misshingだ。」

あそこにある黄色いボックスは何?
「P.D.S」だ。
「P.D.S」セル電話ボックス

また定位置に戻る。
4人ベンチに座る。

目の前を通る他のインド人がわたし達を見ては通り過ぎていく。
珍しい光景なのかもしれない。
少年達はどこか誇らしげだ。

わたしは顔全体に虫除けスプレーを掛ける。
蝿が辺りを大きく旋回している

こうやっているとどうにかして現地の言葉を学びたくなる。
それでもっと距離を縮めたい。
これから先「ご馳走様」と「ご親切にありがとう」と「さようなら」はヒンドゥ語で言いたい。
「アープカェーセーハェー(ご機嫌いかがですか?)」
「ダンニャワード(ありがとう)」
「アープキーケリパー(ご機嫌いかがですか?)」
「イェキャーハェー(これは何ですか?)」

本に書いてあるものを棒読みしただけの発音だけれど彼らはわたしが発したヒンドゥの多くの不純物を
取り除き精査し「おー!アープカェセーハェー!」と鸚鵡返ししてネイティブの発音を何度も教えてくれる。
彼らには変な発音に聞こえても笑えるし、
日本人がネイティブのような発音になるとそれはそれのギャップがあるらしくゲラゲラする。
私達は言葉を変え、
たまに、バックを背負いながら「わたしのバックが盗まれました」という言葉を発してみたり
して変なヒンドゥー講座を楽しんだ。

「そろそろ時間だ。」
わたしが立ち上がると、彼らは最後にというニュアンスと雰囲気で
「ジュース飲むか?」と尋ねてきた。
わたしは、駅ホームにあるジューススタンドで一杯ご馳走になるのだが、
何か申し訳ない気持ちになった。
彼らは年下でお金の持ち合わせも少ないだろうことは分かる。
払おうとすると「いいんだいいんだ」と受け取ろうとはしなかった。
わたしは先程覚えた「ダンニャワード」をできるだけ綺麗に発するように努めていうと、
彼らは同じ言葉を繰り返し、私がどういう表情をしているか見ている気がした。

わたしはこれから彼らと「さようなら」をしないといけない。
最後の挨拶をヒンドゥ語で言おうとタイミングを待っている。

ホームに列車が入ってくる。
セミが言う。
「チケットを持っているか?見せてみろ」
わたしは「ここのホームで待っていれば大丈夫。そう駅員から既に聞いている。」
と伝える。
念には念をなのかアミが見せてみろとやる。
「ちょっと待て!今聞いてきてやる。」
アメベスが車掌に確認しに行く。
「わかったぞ!この列車だ!」
そうそう。この列車だ。
「君の列車は何番ホームだい?」
「僕達もここだ」
「ニューデリーに行くのかい?」
「僕達はそこには行かない。」
「そうか」
「僕達は階級が違うからあっちに行くよ?」
「そうか。。さようならだね。」
「さようなら!」

私が面前の列車に足を掛け入り口で彼らを見下ろす形で別れを告げると
アミが後ろから慌てた顔で何かをいう。
それを受けたアメベスが
「ちょっとまて!その列車じゃないみたいだぞ!!降りろ降りろ!」
動き出す列車。
「降りろ降りろ!」
え?今もう動き出してるのに?
いいから降りろ!それはニューデリーには行かない!

見えるか?あっちにホームがあるだろ?あそこから19:50分発の列車だ
わかった!ありがとう!!じゃあね!!

ホームとホームの間は駅構内の陸橋を渡って行かなければならない。
時間がない。
全速力で走息を切らして乗り込んだ列車の車掌に聞く。
これは「どこのシートですか?」
「ちょっとまてチケットを見せてみろ。ん?
これはあっちのホームだぞ?」
「この列車は違う列車だ。お前の席はない。」
「わたしはあちらのホームから来たんだぞ?」
「間違えない。あちらのホームに到着する列車だ。」

わたしは全速力で戻り、
先程3人と別れたホームで次来る列車を待つ。

インド鉄道の運行ダイヤは日本のように正確に動いていない。
遅い場合は8時間遅れる列車もあるぐらいで、
なんの理由もなく常時遅れている。
それに対応するため、
観光客は何時間前からホームで待ち、インド人は構内に寝ながら対応する。
また、
やっと来た列車だが入ってくるホームが変わることもある。
ここのホームで待っていた列車が一番向こうのホームに滑り込んでくることがあるから気が気じゃない。

翻弄されたわたしはどうやらあの子供達が間違えたと理解して
「ほんとうにもう頼むよ。。」と無邪気に疲れた。
わたしは確認しなくてはいけない。
先程間違えて乗り込んだ車掌はこっちのホームだと教えてくれたが、
もう一度誰かに聞いてその信憑性がふわふわしている情報に確信を求めたい。

汚いツーリストポリスに入っているリザベーションオフィスを尋ねると
禿げ上がってちょび髭の車掌がデスクに足を掛けて仕事をしている。
「このチケットの列車は?」
わたしが尋ねると
男は目を凝らしよくチケットを見る。
すると立ち上がり、今外から帰ってきた同僚に何かを話す。
わたしのチケットを皆で回し、一人一言感想をいう。
何かが問題になっている。
何だ?
「こい!」
わたしは背の高い車掌と一緒にオフィスを出て、
チケットを低い位置で渡された。
「このチケットの列車はもう既に出発した。」
「出発した?」
「もう既に出た。」
「いつ?」
「先程。」
「どこに行きたいんだ?」
「ニューデリーだ。」
「もう今日はニューデリー行きの列車はこないぞ?」

わたしは全てを理解したところによると、
最初に子供達が乗り込んでわたしが降りた列車が正規の列車らしかった。
彼らはデリーをオールドデリーだと勘違いして違うホームを指差した。
わたしはそれに従い走って向かい側に行き乗り込んだが、
そこの車掌は反対側を指差す。
わたしはまだ来ていないものだと勘違いして列車を待つがもう既にそれは出発した後だった。

背の高い車掌が言う。
「おい。お前いいか?ニューデリーには行かないが、オールドデリー行きはあるぞ?」
「どうやって?わたしはチケットを持っていない」
「大丈夫だ。問題ない。」
「どうすればいい?」
「見えるか?一番向こうのホームだ」
「見える」
「あそこで今動き始めた列車があるだろ?」
「ある」
「あれに乗っていけ!」
「うそだろ?」
「あれが最終便だ!何をしているいけ!」
「間に合わない!」
「早く線路を突っ切っていけ!飛び込め!」

わたしは列車がホームに到着してくるよりも先に線路に飛び込んだ。