女性はウンチャオという名前で1人でインドを回っている。
そして今後2ヶ月掛けて回るらしい。
昨晩アーグラに着きこのホテルにチェックインしたという。
『バックパッカー』
あんまりずっといてこの子の今日のスケジュールを崩してしまうのは悪い。
ウンチャオとは今夜夕食を一緒することを約束して一旦バイバイした。
日本人だったらこうも仲良くなっていなかったかもしれない。
多分わたしの場合照れて変に敬語でよそよそしくなって終わり。
韓国の女の子とはコミュニケーションは英語で、
わたしはそれを少ししか喋れないのでそれがかえってよかった。
お互い「こういう事いいたいの?」みたいに助け合うから優しいと感じる。
また必死で言葉を伝えようとしている姿は胸を打つ。
わたしの英語は会話をするには不安定でともすれば「ソーリー、アイドンノーワッアイセイ」を多用する。
分からない単語があれば「ジャストウェイト」と言って部屋に戻り和英辞典を取ってきてページをめくりながら会話した。
聞き取れない単語があれば「ソーリー?」で聞き返す。
そしてもう一回言ってもらう。
もう一回言ってもらっても分からない時は単語を紙に書いてもらう。
書いてもらえば大体解る。「オー!オー!アイシー!アイシー!」
単語一個伝わっただけでとても喜んだ。
それでも何を言っているか分からない事が頻繁にある。
そんな時はわたしが「ソーリー?」と聞き返す事で話の腰を折るような場合だったら解ったフリして流すようにする。
どっちも英語が母国語ではないので手を取り足を取り「せーの、いっちに!いっちに!」で会話する。
ウンチャオは22歳で幼稚園か、保育園か、小学生低学年か、ちょっと定かではないが「ティーチャー」をしているという。
「昨晩はモンキーがホテルに沢山うろついていたから寝れなかった。寝れた?」と聞いてきた。
また女の子は「昨日チェックインして明日バラナシに行く予定」だという。
わたしは「バラナシ!?」と思い、
調子こいてあーだこうだ情報を教えようとしたが止めといた。
多分ウンチャオはわたしなんかよりも旅慣れていて自分で決めていける。
危うく「バラナシに先に行っただけ」で調子こく所だった。
ウンチャオは
デリー→ウダイプル→ジャイプル→リシュケーシュ→ジョードプル→アーグラ。と回って来たという。
そして明日から
バラナシ→ネパールに向かい、2ヶ月後インドに再入国してブッダガヤ→コルカタで帰国する予定だという。
開いた口がふさがらない。
見た目は強そうな女の子ではない。
体は小さくて細い。
ウンチャオはウェイトレスが持ってきたベイクドエッグを何の躊躇もなく食べている。
「インドの食事でお腹壊さない?」と聞くと「壊さないよ?」という。
わたしはどこで食事しても怖いからとにかく食事は「ペプシ!ペプシ!ペプシ!」
とインドで食事をする大変さを語ったら笑ってる。
「インドに来て今まで騙されなかった?」
と聞くと「あー。」と反応し、
「分かる分かる」とうなずく。
わたしはやっと『インドあるある』を言おうとする。
そしたら
「騙されてない。」という。
ないんかーい。
「なぜならニューデリーにいた期間が短かったからだ」という。
なるほどー。
自分のベイクドエッグが運ばれて来た。
ウンチャオが食べていたので安心だと思い、頼んだ奴が来た。
わたしは一口口にいれ、
「大丈夫。食べれる。」と伝えると
「そりゃそうだ」みたいに笑ってる。
写真撮っていい?と聞かれる。
もちろんと答える。
デジカメはその人の旅路が垣間見れる。
今まで撮ってきたデジカメ写真を見せてもらう。
「これは何?」
「これは?」
「うわ!すごいな!」
自分の知らないインドの景色やインドを楽しんでいるような数々の写真にいちいち感嘆してた。
ウンチャオの写真にはインド人が沢山登場する。
そしてそれらは笑っている。
わたしの写真といえばカルチャーショックを受けた時に撮った写真や風景。
心の触れ合いを楽しみに旅をしているのが写真を見て分かる。
わたしはわたしの撮った写真を見せれなかった。
あまりにもインドとの距離があるような写真ばかりだったからだ。
写真を見ればなるほどインドに溶け込んでいる写真と日本の価値観を持ってインドに来てシャッターを押してる、つまり「距離がある写真」がある事が分かる。
ウンチャオの写真は「砂漠で座り、砂で足を埋もれさせ、親指だけ外に出す。
ふとそこに目を落とすとカニさんが爪の所を通った!」みたいな写真がある。
一方、
わたしの写真といえば「うわっ!道路に人のウンコが落ちてる!この国ヤバいな!」みたいな写真。
女の子の写真といえば、
たまたまゲストハウスで一緒だった韓国人の女の子と仲良くなって別れるときそのゲストハウスを運営するインド人と3人一緒にはいピース!みたいな写真。
一方わたしの写真は
「うわ!こんな大通りで、しかもこんな人が行き交う所で、
あのおっさんタッションしてる!インドヤバいな!」の写真。
ウンチャオのは
アラビアンナイトに出てくる女王様が寝るようなベットルームでインド人とパシャリ!
一方わたしのは、
「うわ!このインド人!道路で寝てる!あれ?
死んでるのかな?一応撮っておくか!パシャリ!
わたしはわたし自身どのような目線でインドと向き合っているのかよく分かった。
その「距離の取り方」がいいのか悪いのかは分からないし、
人それぞれの旅の楽しみ方なのだがわたしは女の子の写真を見た時とても心が温かくなるような旅をしてるなぁ。と、
自分にはできない旅を羨ましく思った。
デリーからアーグラまでわたしは電車で来たが、
女の子はボロボロのバスで何時間も掛けて来ていた。
写真にはバスで隣に居合わせたインド人と笑顔で写っている。
わたしにはできないからすごいなぁと思う。
ありがと、といいデジカメを返すと、
韓国語をちょっと教えてもらう。
「アナジョセヨ」と「ポポ」の発音を教えてもらう。「ゲップタ!」と「キヨプタ!」の違いを教わる。
お返しにジャパニーズ「こんにゃろー!」の使い方をと発音を教えてあげる。
どうしても「コニャロ!」になってしまう。
わたしは同じ異国の地で1人で旅している人と今までどれだけここの国について話したかったか知れない。
気付いたら3時間以上話しちゃったので何か予定があったりしたらまずいと思い、
ただこんなに会話したのにこれでサヨナラは悲しすぎる。
韓国ではこういう時どうするのだろう。
男らしさが試されているのだろうか。
わたしはかなりの勇気を持って「トゥナイ、アイウドゥライクトゥディナーウィズユー、オーケー?」と聞いた。
「オーケ。」とこたえてくれた。
結果オーケーもらったけど、
『今夜、私はあなたとディナーがしたい。』なんて、こんな事日本で言ったら笑われるぞ。
柄にもない。
『今夜、私はあなたとディナーがしたい。』って。
指輪渡す人しか使っちゃいけないセリフだぞ。
恥ずかしかったー。
まだ昼間だ。
これから部屋に戻って
用意して
『アーグラフォート』というタージ・マハルを作った王子シャジャハーンが自分の実の子供に幽閉された名所に行こうと思う。
そしてリクシャーとこの旅一番のモメ事が起こる。