ホテルを出て、ゲートを出るとすぐリクシャーが話掛けてきた。
「どこまで行くんだ?」
無視。
ヘイジャポン!
無視。
ただ無視するにしてもアーグラフォートまでの相場だけは知っておいた方がいい。
乗るつもりはさらさらないが参考までに聞いてみた。
「アーグラフォートまで幾らだ?」
リクシャーは彫りが深くて目が鳥みたいにまん丸い。
体はインド人に多い痩せ型で顔もしわくちゃ。
英語は話せる奴だった。
「10ルピー。」
10ルピー?20円?安いな。
「そうだ10ルピーだ!でもこの場所に帰ってくるなら往復で20ルピーだ、」
「ノーエクストラチャージ?」
「ノーエクストラチャージだ!」
アーグラフォートを回ってどこかのお店に行っても20だ!
アイドンビリーブインディアン!インデイアンイズベリーライヤー
すまなかった、ルッキング。ルッキング。アイプロミスユー
本当か?
本当だ。
アイトラスチュー
オーケー乗りな、20ルピーだ。
(乗ろうとしたら違う運転手がいる)
ん?こいつは誰だ?
ドライバーだ、
俺はお前と約束してお前を信頼したんだ。なんでこいつと行くんだ?
俺も行く
当たり前だ!
(交渉していたそいつは助手席に、わたしは後ろ席に、誰だか分からない奴は運転手になる。3人でアーグラフォートまで行く)
信じてくれ20ルピーだけだ!分かった。
ルックルックルック!信じてくれ20ルピーだけだ!
分かったって!
アーグラフォートに行って、ショッピングして回って、帰ってきて20ルピーだ!
オーケーオーケー
お前がアーグラフォートに行った後ショッピングして・・・
分かった分かった、
他にどこか回りたいところはあるか?(地図を出されて)ここはいい所だぞ?
みんなここに行く、
ノーノーノー、アーグラフォートだけだ!
オーケーオーケー。分かった。信じてくれ。
アーグラフォートに行ってショッピングしても20ルピーだけだ、
ちょっと待ってくれ、さっきから『ショッピング』って何だ?私はショッピングはしない。
え!?ショッピングしない?
ちょっと停めてくれ!
(男は運転手にリクシャーを側道に寄せて停止するよう指示する)
ホワイドゥアイハフトゥーショッピング?
今日は金曜日だぞ?仕事がないんだ!
知るか!こっちの知ったことじゃない!なんで店に行かないといけないんだ!
金はないし買わないぞ?
リッスンリッスン!買わなくていい、見るだけだ、ただ見るだけでいい、
買わないのになんで見なくちゃいけないんだ!
リッスンリッスン!3つのお店に回って買わないで見るだけで私たちにはお金が入る、20ルピーだ、合わせて60ルピーだ、だから見るだけだ。
(成る程そういう事か・・・だからインドのリクシャーは違う場所で降ろすのか・・・)
そのお店はセーフティーか?そのお店に行ってもし私が危険に感じたらお前には何も払わないぞ?
オーケーオーケー、見るだけでいい、
見るだけだな、オーケー。
出してくれ。(男が運転手に指示を出し再びリクシャーを走らせる。アーグラフォートに着く。リクシャーの2人を待たせて見学しに行く)
(アーグラフォートはすごくよかった、
わたしはもうちょっと別の、「歩き」じゃいけないような遠いところに行きたくなった。
ただ違うオートリクシャーで回ろうかな?でもまた交渉したりするのが面倒だな、逃げようかな?でもここで逃げたら金払わないドロボーだな、よし、外に出ていなかったら帰ろう。1時間以上も炎天下で待っている訳ない。違うお客を引っ掛けて運んでるに違いない。)
しっかりいるじゃん。
ヘイジャポン!
オーケー、次は『イトマドフォード』まで行ってくれ、幾らだ?
80だ!
80?
いいかよく聞け、ここからイトマドフォードまで8キロある。本来はツーリスト料金で100ルピーだがインディアン料金で80にしてやる。なので180ルピーだ!
え?ちょっと待て、なんで180ルピーなんだ。
往復だ。80で行って80で帰ってくる。往復だ。
いや、それなら160だろ。
それに先程の20を足す。
あー、そうか。分かった。オーケー行ってくれ。あとそのお店はどんなお店だ?
サリーとタバコと宝石屋だ。
(なるほど。これはかなりヤバイな。確実に見るだけじゃ済まされない。何か手を打たないとダメだな。)あと、イトマドフォードまでどうやって行くつもりだ。地図を見せろ!
これが地図だ。
おいおい!近いじゃないか!タージマハルからアーグラフォートとアーグラフォートとイトマドフォートの距離は一緒じゃないか!
ルックルックルック、ここに鉄道があるだろ?ここはこうやってぐるっと回らないとイトマドフォードには行けないんだ!
(確かに地図上では鉄道があって線路がはしっている。)
分かった、行こう。
よし『お店』に行こう!
なんでだよ!
え?
え?じゃないよ!何でお店に行くんだよ!
アーグラフォートに行った後はお店だろ!
おいおい待て!俺の旅だ!お前の旅じゃない!お店はそれに行った後だ!
分かった。
(リクシャー動き出す。)
アーユーコリアン?
イエスアイアムコリアン。(ところでこの運転手は誰だ?)
フーイズヒム?
ヒーイスマイブラザー。
(『イトマドフォード』に着いた)
イトマドフォードの受付は半券をもぎった後、返してくれない。
わたしは後で「半券はどうした?なくしたなら金払え!」となるのが目に見えていたので「ハーフチケットプリーズ」と訴える。
ほらよ!と渡される。
センキュー。
半券はここのボックスに入れるんだぞ?
見ると黒い箱が置いてある。
ここか?と確認する。
するとおっさんは、
おいおい今じゃない!帰るときだ!
帰るとき必要なんじゃねーか!!
危うく騙されるところだった。
(イトマドフォードを満喫して)
さてどうしようかな。
ここでお店に行かない!って言って降ろされたらホテルまで帰れないな。
とりあえず店に行くとしてもパスポートとお金を奪われたら終わりだから隠すところないかな、今はサンダルだしな、困ったな、
よし!一旦ホテルまで戻ろう!
(リクシャーの所まで戻って男に言う。)
オーケー。お前のお店には行く。でも私はホテルでこのポシェットを部屋に置いてきたい。
オーケー。ノープロブレム。
ありがとう。行こう。
店とホテルとどっちに行くんだ?
ホテルだ!ホテルに帰れ!
(どうしようかな、ホテルに帰ったらそのままバックレようかな、でもそしたら俺が悪いなぁ、警察沙汰になったら嫌だしな、と考えてると)
見ろ!あれがタージマハルだ!
朝見たわ!ホテルからも見えるわ!
あれ?
今気づいたけど行きと帰り違う道で帰っていない?
うわー、こいつ鉄道があるから遠回りしなくちゃいけないって言ってたのに!
『陸橋』で越えられるじゃん!もう言っても無駄だからいいわ、
体の安全を確保したら今度お金だな、後はいかにお店に行かないかだ。
(ホテル近くウエストゲートに着いた。よし。)
私はちょっと疲れた。
これまでの交通費180ルピーは支払う、ちょっと待て、(ポケットには150ルピーしかなかった。)
あ、今150しかなくて30ショートしてる。とりあえず150ルピーもらっておけ!
いい!!後ででいい!
分かった。ところでお前らの『お店』はどこだ!
すぐそこだ!
すぐそこなら歩いていこう!
ノー!リクシャーだ!
(リクシャーで行ったら自分の意思で帰ってこれなくなる)
お店はここから1キロだ!
1キロなら歩きで行けるだろ!待ってろ!とりあえずホテルにこれを置いてくる!
(部屋に戻ってきた。どうしようかな、このままバックレれるな・・・ただそうしたら完全に俺が悪いな、金払ってないしな・・・・よし!話をつけにいこう!)
(男達は日陰で休んでいた。)
まずこれはさっきのペイメントだ!(180ルピー渡す。)そして俺は疲れた。もし『お店』に行かないならお前らにいくら払えばいいんだ?
200ルピーだ!100と100だ!
ちょっと待て!何でだ!
お前はお店に行くといった。
そうだ。確かに私は約束した。でも俺は疲れた。なぜ買い物をしなくて見るためだけに行かないといけない?
今日は金曜日で休日だ。私達は仕事がないんだ!
知るか!200ルピーの内訳はなんだ!
ガソリン代だ!
ガソリン代をなぜ払わないといけないんだ!歩きで行くって言ってるだろ!
歩きじゃだめなんだ!リクシャーで連れて行かなきゃ彼は私達に払ってくれないんだ!
なんでだ!
彼のお店は人が来ない。
だからツーリストを入れさせればお金は支払われないんだ!
さっき行ったイトマドフォードの方が距離的に遠かったのになんでガソリン代がそんなに高くなるんだ!
行こう!行けばお前が200を払うことはない!見るだけだ!
行かねーよ!
チャイ代だ!チャイ代を払え!
チャイ代?なんだそれ!
お店に行ったら彼ら達が私たちにチャイを出してくれる!そのお金だ!
なんでお前らのチャイ代も俺が払わないといけないんだ!
じゃぁお店に行かない分お前は私達に幾ら払うんだ!
100だ!
100?だめだ200だ!
いいや100だ!私は約束した、でもキャンセルした、その分だ!お前はキャンセルしたら200と言ってないし、俺はお店3つ分。20、20、20で60払えば行った事になると考えてた!それプラスキャンセル代40払うから100だ!
だめだ『俺ら』の分200だ!
ちょっと待て『俺ら』ってこいつは誰だ!
俺の弟だ!
なんで私は弟の分まで払わないといけないんだ!
弟の分払わないならお前は幾ら私に払うんだ!
何度も言ってるだろ!100だ!
じゃぁ150だ!
だめだ!そもそもお前は運転できないのか?
運転できる!
じゃぁなんで私はお前の弟まで連れて3人でいろいろ回らないといけなかったんだ!なぜお前の弟のチャイ代もガス代も払わないといけないんだ!100だ!
だめだ!150だ!
よし分かった!そこのウエストゲートに警察がいるから3者で話し合ってどっちが正しいか決めてもらおう!
(『ポリス』と聞いてビビったのか)
分かった!100にしよう!
(早っ。)
わたしは100ルピーを払うとホテルに帰った。
ベッドの上で仰向けになり考えてみる。
シーリングファンが回っている。
なんであいつらが勝手に決めた『3つのお店を回るコース』をキャンセルしただけで100ルピーを払わないといけなかったのか、
冷静に考えたら変だ。
ここではこういった『値札がない料金』は交渉次第で高くもなるし安くもなる。
向こうが途中から勝手に話に入れてきた『チャイ代』みたいにどうにか料金に加算させようとする。
そしたらツーリスト側も「聞いてない。」「それをお前は最初言ってない。」等、向こうのミスをつき、理屈や筋でいかに不当な料金を加算してるか解るまで話す。
お互いの「折り合い」を見つける。
わたしは結局計280ルピー払った。
一回のリクシャー乗車で100ルピーを越えるのはぼったくりだと知ったのはその後になってから。
なぜならインディアガンディー国際空港からニューデリーまでバスで40分以上掛かるが『50ルピー』だからだ。
ファンが回る中、
わたしは停電でエアコンが止まり、
部屋が暑くなるまで眠ってしまった。