列車がバラナシ駅に着くとどっちに歩いたら出口なのか分からない。
人の波についていけば出口があるのだろう。

今日もまた暑い。

駅前にはリクシャーがずらっと並んでいる。

「ヘイ!ジャポン!」
「ホェアーユーゴーイング?」
「ヘイ!」
「≦●%#▽♀ヰ?」
「20ルピー!」

色んなアプローチで僕に「乗らないか?」と誘ってくる。

よくテレビでマスコミに揉みくちゃにされている「時の人」を目にするが極端に言うとそんな感じ。

日本人を見るやいなや寄ってくる。

もしこのような状況でバラナシ駅前でわたしがキョロキョロしていたらすぐに囲まれるだろう。

ここでガイドブック開くのはまずい。

列車の中で簡単な地図を自分なりに作ってみたが実際の道がわたしの想像していた道ではない。
そもそもインドは舗装されていない道路が多い。

砂埃が舞う。

道が「道ではない」ので分からない。

わたしはどっちの方向に歩けばいいのか全く分からないのに
バラナシには何十回も来てるかのような「確かな足取り」で歩きだした。

車が沢山流れる方。

巡礼に訪れたのであろうサリーの集団が目指す方。

活気がある通りの方。

多分そっちに向かえばガンガー(ガンジス)なのだろう。

勘だ。

そんな中でも徒歩だと何分ぐらい掛かるのかだけは一応把握しておかないといけない。

わたしは次に話掛けてきたリクシャーに聞いてみた。
「エクスキューズミー」
「ヤ」
「ハウファーイズイット〜?」
「ワンナワー」
「リアリー?」
「フォエアユーフロム」
「コリアン」
「コリアン?」
「ヤ、アイウォントゥゴーガンガー、ハウマッチ」
「50ルピー」
「50ルピー?」

50ルピーなら乗ってしまおうかな。と思い運転手に釘をさす。

「ノーエクストラチャージ?」
「ノー」
「オーケアイムトラストユー」

駐車場に連れていかれ車に乗り込む。
そいつはリクシャーではなくタクシーの運転手だった。
エンジンを掛けた瞬間そいつが言ってきた。

「ドュユハブァホテルトゥナイト?」
「ソーリー?」
「ドュユハブァホテルトゥナイト?」
「ナンオブヨービジネス、ゴーゴー」

「ホワイ」

わたしは話が反れてきたと思い車から降りた。

必ず話が反れてくる。
必ずホテルを紹介してくる。
乗ったら最後。ホテルに向かうつもりだ。
たとえ向かわなくても話が反れてくる奴は金額面でも変えてくる。
また変えれるように仕組む。
話掛けてきた奴に聞いたのが不味かった。
ニューデリー1日目の「人に道を聞く時」の教訓を忘れてた。
もう信じない。
歩く。

後ろで「ヘイヘイ!」聞こえるが無視。

歩く。

「ヘイジャポン!」
砂ぼこり。
ずっと鳴ってるクラクション。
緑色のマンゴー。
道路真ん中を闊歩する牛。

終始ウンコの臭い。
ブルベリーの山。

歩く。

汗が尋常じゃないくらい流れる。
話掛けて来る奴無視。

もの珍しそうに「外人」を見るしわくちゃの老人無視。
サンダルが靴擦れ起こして痛いけど無視。

朝9時無視。

歩く。

歩く。

瓦礫の山。

瓦礫で暮らす人。

通りすぎるサイクルリクシャー。

通りすがりに見てくる奴。
全員無視。

歩く。

ここの交差点はどっちに曲がればいいんだ?
どっちの方向も賑やかだ。

これは人に聞かないと。

オーケー。センキュー。
こっちだ。

歩く。

疲れた。
ジューススタンドだ。
良さそうなおっさんに清潔そうな店先だ。
cokeプリーズ。
25ルピー?
ヤ。

冷えてない。
coke冷えてない。
まいいか。

ちょっと取り敢えずここで休もう。

ここならゆっくりガイドブックを見ることができる。

今ここら辺のはずだ。

シャッターが下りている店先のちょっとした階段にわたしは腰を下ろしていた。

cokeを飲みながら暫く休み、ガイドブックで道を確認していた。

すると「エクスキューズミー?」と話掛けてきた奴がいた。

こいつは誰だ?

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