「ここなら平気だろう・・・。バレることはないはずだ。」
寝台列車のアッパーサイドで横になると、すぐにカーテンを閉めた。
少年2人はわたしを探して車内を行き来しているみたいだ。
「どこだ?どこだ?」

車内を行き来するインド人の頭が見下ろせるぐらいの高さから確認する。
暫くして車掌がチケットを拝見しに来るだろう。

外国人はパスポートと一緒にそれを提示しなければいけない。
寝たフリをしようが起こされ顔と名前とここが本当にお前の席かを確認される。
その瞬間カーテンを開けることになるが、それさえクリアーすればわたしはジャイプルまで面倒に付き合わなくてすむ。
面倒に付き合わなくてすむはずだった。

わたしはオールドデリーの駅ホームでジャイプル行きの列車の搭乗を待っていた。
ベンチに座り、リュックの中身を全部出す。
どうやらPCアダプターをなくしたみたいだ。
リュックの中身はどこに何があるか決めていてその場所は取り出して戻す際もそうしていた。
なのでその場所になければ「紛失」ということになる。
わたしはその決まりごとをわたし自身が破って収納したことを願った。

「ホテルの部屋に着いたら使うもの」はリュックの奥のほう、
「旅中たまに取り出すもの」は上層、
サイドポケットには「水とコレまでに得てきた思い出の品(混雑時スリに遭ってもなくなってもいいもの)」
ポシェットには「大切なもの、頻繁に取り出すもの。」だった。

ホテルのベッドの上でしか使っていないPCで、同じホテルにしか泊まっていないとなればニューデリーのパレスホテルに違いない。
コンセントに刺さったままなのかもしれない。
「今いるそこを離れる際は一度いた場所と床下を確認する」という決まり事もしていたのだが徹底されていなかったみたいだ。

ノートパソコンはカメラのデータ保存用としてだけの為に持ってきたものだ。
一日に300枚以上の画像データを転送する。
わたしはそれを旅の途中の随所でPCを開き、転送という作業を行っていた。

アダプターがないということは今のバッテリーが切れたらデータがSD上のみでしか保存できなくなる。
今後帰国までに多くのシャッターチャンスや印象深い場面に出会うだろう。
SDカードを買うか。。?
アダプターを買うか。。同じ型のがインドにあるか?
バッテリー残量は2時間3分
転送時、すぐ立ち上げてすぐシャットダウンしなくてはいけない。

その時だった。
わたしが荷物の奥を闇雲に探していると隣から声がする。
「Hai」
顔を上げ、声の方向を見る。
そいつは既にわたしの隣に座っていて、
気付かなかったが随分前からそこにいるようだった。
わたしはいつもの感じの物売りと思い、生返事を放っといた。
続けて隣りの人は
「お前はフォトフラファーか?」と尋ねてきた。
わたしはその人をちゃんと見てみた。
周囲には他にもう一人の「友達」が立っている。
わたしは少年に「笑。なぜわたしがフォトグラファーだと思うんだい?」と聞いてみた。
「だって。ぶらさげているから笑」

旅をしていると多くのインド人がこちらを注視していることがある。
外人ということももちろんあるが、
よく目線の先を追うとどうやら首からぶら下げているカメラに注がれていることに気付く。
わたしは「インドでは一眼レフがダイヤのように見えるのかもしれない」と感じ、
いつ襲われるかもわからないそれの首からのぶら提げ方も考えたほどだ。

そんなにも珍しいものかと思う出来事がある。
歩いていると無邪気な少年が「フォト!!フォト!!(僕達のことをそれで撮ってくれ!)」と近づいてきて、
わたしが写真を撮ると「見せろ見せろ!」とプレビューを見て騒ぎ出す。
彼らにとって写真を撮ることはそれ自体敷居が高いもので、非日常の一大イベントなのかもしれない(そういう地区にしか旅をしていないので分からないが)
彼らはそれが高価なものだと知っているし、そんなものをぶら下げているのはそれを商売にしている奴だろうという考えみたいだ。

わたしは嘘をついた。
「フォトグラファーだよ笑」
「やっぱり笑。そのPCはなんだ?」
「画像データを転送するんだよ」
「そうなのか。。Photoshopはインストールされているのか?」
「されているよ笑」
「CS何だ?」
「5だよ。」
「5??そんなのないだろ!笑」
「最新でもCS3だぞ?」

わたしは彼がなぜPhotoshopCS3を最新だと言っているのか察するに余りあるが、
それよりも彼がその話に興奮して矢継ぎ早に聞いてくることに興味が出てきた。
「あなたは何(職業)なの?」
「フォトショッパーさ」
気付かなかったが彼も首から一眼レフカメラを提げていた。
「キャノンだね。」
わたしはさっきから隣で話を聞いている友達に視線を送り、
「彼は友達?」と聞いてみる。
「弟さ。」
彼は私との距離をまだ感じているみたいだ。
「ねえフェイスブックやってる?」
「やってるよ笑」
「ちょっと僕の事検索してみてくれよ!」
「いいけど俺はこれ(フュチャーホン)なんだ笑。これは海外では使えないんだよ。使うと高い請求が来るから」

言っている事がよくわからないという兄貴に隣りで聞いていた弟が英語で伝える。
「あ、そうなんだ笑 じゃあ僕が探すよ。名前は?」
「MORITA KENNJI」

インドで自分がSNS検索されてインド人に
「これかい?」と言われる。

「なあケンジ!どこまで行くんだい?チケット見せてくれよ!お!ジャイプルじゃないか!!ジャイプルは僕が住んでいるところだよ!おい!見ろよ!(弟に)車両まで一緒じゃないか!!笑
ジャイプルはとても美しい街さ!お勧めをメールするよ!そうか!一緒の列車か!!笑」

少年は続ける。
「ケンジはさ!ワイン飲める!!!???後でのもうよ!!じゃあ後でケンジのベットに行くから!!」