右足の親指と人差し指のサンダルの支点となる所の皮が剥けている。

靴擦れを起こしている。

舗装された道路がないバラナシではサンダルで砂地を歩く。

わたしはどうにかその支点を爪先側にずらす事で対処してペタペタ歩く。

「お兄さん!お兄さん!昨日の僕だよ!覚えてる?話したよね!昨日話したよ!」

この感じだと結構近い距離で声を掛けられている。

わたしはそちらに振り向く事なく目の前を急に止まるサイクルリクシャーを避けたり、声の主とは別の客引きをあしらわなくてはいけない。

よそ見していたら誰かしらにぶつかる。

「お兄さん!覚えてる?!」
「覚えてない!」

「話したじゃん!」

「話してない!」

歩を前に進めながらわたしは誰だか分からない声の主に答えた。

多分声の感じからしてダーシュワメードガートの「大沢たかお少年」だろう。

または違うかも知れない。昨日通りすがりでたまたま見た日本人に「昨日会った!」と振り向かせようとしているかもしれない。

向こうから来る「インド」と急ブレーキする「インド」を避けながら縫うように歩いてゆくと
話しかけてきた「インド」はやがて聞こえなくなった。

ここら辺はバラナシに来た観光客がお土産を買う通り。

店頭にサリーを着たマネキンを置き
お店の雇われ人が目が合った僕に軽く顎を「クイっ」とつきだし
無言で「どうだ?(買うか?)」とやる。

または店頭でそれだけの為に立っている男性がわたしに向かって「ヘーイ!サリー!」と叫んでくる。

ニューデリーでもここでもそうだが、
よくインド人は自分が売っている物の名前で人を呼ぶ。
わたしが歩いていると隣につけて「ヘーイ!タクシー!」
わたしが「あ、マンゴーだ、」と見てると
「ヘーイ!マンゴー!」

わたしはそれらを全部無視してあげる。

ワゴンにぐちゃぐちゃに重ねられたサリーや
どことどこを結んでいるのかロープを張らしそこに引っ掛けるように吊るされたサリー、
ちょっとテントの中の奥まったお店に行くとサリーを切り売りしている。
それら筒状のサリーは立て掛けてあったりボックスに突っ込んであったりで、
店頭のそれとは値段が違うのがわかる。

どこもそうだが僕がサリーのお店に入ると必ず店員が「あ、日本人が来た。」みたいな顔がする。

「このサリーは肩から袖に掛けて風通しがよさそうだ。春や秋にいいかもしれない。
あげる人のイメージにぴったりだ。」

日本人に反応した店員は
「いらっしゃいませ」や「どのような物をお探しですか?」とは絶対言ってこない。

わたしの目線の先にあるサリーを追って「800ルピー」と始める。

値段交渉が始める。

店「800」

わたし「いや、このサリーは200だ。(サリーの事全く知らないのに。)」

「200?これはいいサリーだぞ?知ってるか?200なんて無理だ。」

「わたしは知っている。これは200だ。」

「ラストだ。600だ。」

「200しか持っていない」
「600だ。」

「残念だ。帰る。」

「400だ」

「人の話し聞いてるのか。これは200だ。」

「オーケー。分かった200ルピー。」
ボロボロの薄いビニール袋にサリーを畳んで渡してくれる。
握手をする。
店員が聞いてくる「ホエアユーフロム?」

「フロムコリア。」

店員は「やっぱり、韓国人だからか。」みたいになってる。

過去に韓国人と何があったのだろう。

それにしても
あのやろー最初3倍近くの値段吹っ掛けて来やがった。
帰ろうとしたら値段下げて来た。
200でも高いかも。
100でいけたかも。

近くのお店で似たようなサリーが幾らスタートになっているか何軒か回ってみる。
「多分これは相場だ。」

ヨガを習いたいのでホテル近くのヨガスクールに訪れる。
校舎に入ってゆき扉を開けようとするが鍵が掛かっていていてこれ以上入れない。
ここだけは静かだ。

バラナシにある寺院
バラナシにある寺院

「歯を磨きたい。」

あそこの建物からこっちを見ている人がいる。

向こうのほうから見ている
向こうのほうから見ている

「今日は休み?」

返事がない。

聞こえているけど言葉がわからないのか。

聞こえていて意味が分かっているけど無視しているのか。

聞こえていないのか。

「明日からのスケジュールを決めないといけない。マンゴー買って帰ろう。」

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