ホテル『サンモニー』
に決めたのは「ガンジス川はよく見える」「プラグ変換器がある」「テレビがある」「列車の予約ができる」というのを満たしたからだった。
サンモニーはハリスチャンドラガート内の一番ガンジス川に近いホテルだ。
部屋から見えるガンジス川。
値段はガイドブックにはシングル1泊8〜15ルピーと載っていた。
日本円で30円。
オーナーが示した金額は500ルピー。
1000円。
わたしはこの『ツーリスト価格』を別に揉める事もなく受け入れた。
「1000円で眺めが最高でサービスがいい所に泊まれるなら、」という日本の金銭感覚が残っていたためだ。
これからわたしがまずやるべき事はインド人ともめる事じゃない。
少なくなった携帯電話を海外用のプラグで充電して、
お風呂に入る。
そしてオーナーに列車の予約をしてもらう。
夜は日本代表VSパラグアイ。
テレビで観戦したあとはゆっくり休もう。
ずっと歩きっぱなしだ。
そして明日の朝ガンジス川に行き日の出の時間にボートに乗ろう。
部屋にあるお風呂に入る。インド最初のホテル「レジェンド」で入って以来だ。
僕は荷物を極力減らすため着替えは今着ているの合わせてTシャツ2枚とパンツ2枚。ズボンは今はいている奴のみ。
こっちで洗って干せばいいと思った。
ここ2日間の汗と砂が染み込んだTシャツとズボンを脱ぐ。
シャワーを浴びようとひねると最初は何やら水が汚れてた。
多分ガンジス川の水が混ざっていたのかもしれない。わたしは思わぬ所で「沐浴」をした。
シャワーをしていて気づいたが石鹸もシャンプーもない。
インドに来て買おうと思っててすっかり忘れてた。
今日は仕方ない。
水で流すだけた。
髭も延びてきた。
この旅行で剃るつもりはない。
出たらバスタオルとTシャツをベランダに干して新しいシャツとパンツに着替える。
「あーすっきりした、」
部屋のベッドにどっぷり大の字になりシーリングファンを眺める。
目の錯覚で眉間に皺を寄せるぐらい睨んでいるとシーリングファンのプロペラ一枚一枚がくっきり見えた。
もう夕方だ。
日本は夜19時間のはずだ。
携帯の画面にインドの時間と日本の時間が表示される。
せっかくインドにいて日本の時間は「常に」表示しないでいいよ、と思った。
時差は−3h30m。
計算できるし。
どう設定しても消えない。
これから夜20時のサッカーまでに
列車の予約。
飯。
を済ませよう。
わたしはミネラルウォーターを飲み干すと部屋をロックする南京錠に四苦八苦し、やっとのおもいで鍵が掛かると階段をおりていった。
オーナーはどこかインド人っぽくない顔をしている。
事務所にネパールのポスターがやたら貼ってあったのでひょっとしたら「ネパール人?」と聞くと。
ただ「ネパールにしょっちゅう行く」だけらしい。
事務所机には日本人が撮ったプリクラがディスプレイしてあった、
「イズデイスジャパニーズ?」
「イェー」
他には日本人女性のの履歴証用の「証明写真」もあった。
その女性と一緒に仕事をしたのかスナップ写真もある。
日本人と交流がある所からして騙したりはしないだろう、思う。
四ッ谷に店があるニューデリーのレストランに入った時オーナーは頼んでもいない美味しい料理をどんどん無料で運んできた。
このように分かりやすい親日家はいる。
ここのオーナーもそうじゃないか?
じゃないと日本人がオーナーと一緒に写真を撮らないし思い出にプリクラを置いていかない。
そしてここのオーナーはそれを大切にこのようにディスプレイしている。
ガイドブックにここのオーナーは頼まれた事はしっかりやる。と口コミがあった事も信頼を寄せた理由だ。
ここのホテルの人とはうまくやっていかないといけない。
列車の予約とスケジュール相談はこの旅の後半を大きく左右する。
わたしのこれからの希望のスケジュールは
明日6/30夕方〜アーグラに10時間近く掛けて列車移動する。
夜アーグラ泊。
7/1。
タージ・マハルを夕方まで見学してリシュケーシュへ。
「リシュケーシュ」はヨガ発祥の地。
かつてはビートルズも訪れて本場のヨガを体験したという。
7/1はリシュケーシュ泊。
7/2はリシュケーシュに滞在、そのまま泊まる。
7/3は夜までにニューデリーに戻り同日20時の便で帰国する。
これは可能か?とオーナーに聞くと「やってみる」という。
事務所のインターネットで列車の予約をしている。
オーナーはたまに画面に向かって「シット!」と罵声を浴びせてる。
「どうしたんだ?」と聞くと「お前が乗りたい列車がもう予約で埋まってる。明日夕方からアーグラに行きたいと言ったが、
アーグラに行く列車は朝8時にバラナシを出ないといけない。それしかない。」
という。
「明日朝8時?!ガンジス川のボートが朝5時からだから・・・いや、ちょっと厳しいなぁ、」
わたしはどうしようか迷った上「国内線はどうだ?」と聞いてみた。
ニューデリーからアーグラまで列車で3時間だ。
ニューデリーからバラナシまで列車で15時間掛かった。その日は夕方から1日潰れた。
わたしは折角のインド滅多にこれないインドで時間を大事にしたいと思い、
バラナシ空港からニューデリーのガンジー国際空港まで飛行機で帰りニューデリーからアーグラまで列車で行こうと考えた。
列車では15時間掛かる所、バラナシからニューデリーまで飛行機で1時間半。
「国内線を予約できるか?」と尋ねると「ジャスウェイト」と言い調べ始めた。
キングフィッシャー社のエアラインが16時バラナシからある。
席は残り僅か。
値段は7500ルピー。
大体1万5千円。
15000円か、、、。
わたしは一回冷静になって何が一番大事か考えてみた。
わたしが本当にしたい事。
「タージ・マハルは絶対見たい。」わたしがしたいことは考えてみたらそれだけだ。
「シット!」
オーナーが叫ぶ。
「どうした?」と聞くと
「明日は仮に飛行機でニューデリーに着いたとしてもその日中にアーグラは行けない。列車に空きがない。」
なのでニューデリーに泊まることになり、
朝イチでアーグラに行くことになる。
それだと話は別だ。結局バラナシから列車で15時間かけてまた戻るのと一緒だ。
確実に今日の夜アーグラに着かないと国内線を乗る意味が無い。
試行錯誤したスケジュール。
ニューデリーだけはもう勘弁だった。
あそこには極力いたくない。
あの環境の悪さ。
悪い奴の多さ。
イメージが悪い。
一回考えて、落ち着こう。
わたしは「ちょっとご飯食べてくる。」というと
オーナーは「よし!ご飯食べてフットボールを見終わったらまた考えよう!」と提案してくれた。
ここのオーナーは自分のスケジュールに添えないとPC画面に向かって「シット!」と罵声を浴びせてくれる。
わたしの意に沿いたい一心で気持ちが入っている。
「インド人を嫌いにならないで?インド人でもいい人はいるから。」
と少年に言われたが、本当に目の前にいい人がいた。
喉渇いていないか?コーク飲むか?
お金はいいよ!
わたしは夜また練り直すことにした。
「この辺に美味しい日本食はあるか?」とオーナーの親父っぽい巨漢に聞くと「『イーバカフェ』がすぐそこにある。」と教えてくれた。
日本人がバラナシに来たら多分通うお店だ。
道路に「イーバカフェはこちら!」と日本語で書かれている垂れ幕があるくらいだ。
インド7日間の旅だとしたらバラナシに来る日本人はカルカタから入国しない限りニューデリー〜アーグラ〜バラナシの順で来る。
その場合バラナシでは旅も終盤に差し掛かる。
そして終盤には日本食が恋しくなる。
わたしは違ったルートニューデリー〜バラナシの順で来た。
旅は終盤ではない。
中盤だ。
だが日本食は恋しい。
わたしは最初から日本食が恋しい。
インドのカレー、「タリー」なんて食べたくもない。
インドの食事は食べたくもない。
蠅がたかって、洗ってない食器で煮込んで、何触っているか分からない手で、
埃まみれの場所で、
ウンコの匂いしかしない道路の近くで、
美味しいインドの料理を食べるにはそれなりにお金を払わないと食べれない事が分かった。
ただそれでも怖い。
腹を下して残りの3日は病院で寝込む。
これだけは避けなくてはいけない。
わたしは日本食を食べたい。
インド料理は食べないでいい。
話は変わるがバラナシは1日6回ぐらい停電する。
もっとかもしれない。
ただでさえ街頭がない地区で停電が起こると何も見えない。
夜は真っ暗になる。
しかも暑い。
エアコンは停まるしファンも止まる。
真っ暗。
インド人は毎日の事だから慌てない。
これには考えさせられる。
しかも停電が5〜10分とかではない。
40分〜1時間以上も戻らない事もある。
最低でも40分は復旧しない。
話しは戻って、
わたしは日本食のお店イーバカフェに向かった。
ここら辺なんだけどなー、おかしいなぁ、
見逃したかな、
3つめを右だろ?
これはちょっと行きすぎてるよな、
この地図だとこんな歩く距離じゃないもんな、
などと迷っていたら
8歳ぐらいのガリガリで上半身裸の子供が(珍しくはないが、)
「イーバカフェだろ?あっちだよ?」と教えてくれる。
わたしは「センキュー」と別れを告げると子供は離れない。
「連れて行ってやる!」と何かが化けた親切心を見せてくる。
わたしは「自分で見つけられる」というと「こっちだよ!」と勝手にエスコートする。
ちょっと前の僕なら気にせず無視して違う道を行っていたが、
「まぁじゃぁ連れて行ってもらおうかな。」と楽な気持ちになる。
「ここを曲がって、、ほらあった。」
子供の目線の先、店頭には「ジャパニーズフード・イーバカフェ」とある。
わたしは「ありがとう」というと予め用意してあった2ルピー硬貨を渡した。
子供はありがとう!と言って去るだろうと予想してたら「少ない!」と言いやがった。
チップに少ないも何もあるか!気持ちだろこんなもの!
道を教えてくれた奴にあげるチップの相場なんて知らないし
少なかったかもしれないが俺にしてみれば「初めてのチップ」だぞ。
こっちはずいぶん前からポケットの中を漁って「あ、このお兄ちゃんチップくれるんだ!」ってバレないようにお金を確認して「着いたよ?」と同時にあげるという演出まで考えたのに「少ない!」はないだろ。
日本でちょっと道教えただけで「お金!」なんて言ったら削られるぞ?
その子供はあろう事か店まで入って来てチップを要求してきた。
店員に外に追い出されてた。
店内は薄暗くて低いソファーと低いテーブルがありゆったりと時間が流れている雰囲気があった。
日本人の女性2人組が入り口に、
ヨーロピアン?の女性3人組が奥に位置している。
日本人の女性は当たり前だが日本語で話していた。
わたしはちょっと恥ずかしくなった。
海外で日本人に会うと恥ずかしくなるのはわたしだけだろうか?
あんまり話したくない。
わたしはメニューを開くと
「マンゴーラッシー」と「ラーメン」と「鳥と茄子の揚げ出し」を頼んだ。
出てきたそれを見てわたしは「失敗したー!」と思った。
というのもこれ全部「生水使ってるじゃん!」と今にして気付いたからだ。
うわー、怖いなー、
ラッシー。
牛乳だしなー、
うわー、普通の味。
不味くないけど、
ラーメン、ちょっと美味しいな!日本の不味いラーメンより美味しいぞ、
なんだこれ?
ラーメンにキャベツの千切り?え?何これ、人参の千切り?
コールスロー?
煮玉子かぁ!これはあぶねーな!この玉子はインドを棒に振るぞ!
うわ!これ鳥と茄子の丼、どんぶりか!
うわ、なにこれ!まずい!
この米、くそまじー!
うわ、残そ!
ラッシー怖いなー!
ラーメンちょっと旨いなー。
なんでキャベツなんだよ!
ちょっと最後に食べてみよ、
うわー、やっぱ米まじーな!鳥なんか本当に怖いわ!絶対食べれないわ!
わたしはこんな事を思いながら残した言い訳を
「アイムソーリー、アイアムビジー、アイハブノータイム。ソーリー。」とお店の人に言いながら席を立った。