ガンジス川は思ったより幅がなかった。

ヒマーラヤ山からベンガル湾を流れるガンジス川は全長2500キロ。
この距離は北海道から沖縄までだ。

北海道から沖縄までの長い川をわたしは想像する。

聞くとこによると岸辺から向こう岸まで500mぐらいらしい。

男は「あそこを見てみろ」とわたしの背後に立つ建物を指差す。

仰ぎ見る建物の3、4階の高さの位置にペンキで線が引っ張ってある。

ヒンドゥー語で何やら書かれている。

「ガンジス川はあの位置まで増水するんだ」

今立ってる自分の位地の遥か頭上に河が増水した水面の跡が残っている。

わたしは線の位置まで増水した時の景色を想像する。

ヒンドゥー教徒がガンジスを崇める理由。

日本人にとって富士山は日本の象徴だ。
その理由が日本一「高い」だからだとして
皆が山頂を目指し「登る」のだとしたら

ヒンドゥーが何故ガンジス川に敬虔なのか?の答えは「大きい」から「浴びる」のだろう。

日本人がガートに来たと知るやいなや
既にそこら辺にいた奴等が「ボートに乗るか?」「これ買わないか?」とゾロゾロ近づいてくる。

※ガート。岸辺から階段になって河水に没している堤。

男が「俺の客だ」と言ったのかすぐに諦めて散らばる。

ガンジス川の人々
ガンジス川の人々

みんな沐浴をしている。
もっと神妙な面持ちで入水しているのかなと思ったが子供達ははしゃいでいた。
ただの水遊び?と思うぐらいだ。

水はさすがに掛け合ってはいなかった。

そんな中でも
掌をあわせて目を閉じて
何か言いながら
真っ直ぐ沈んでいく。
上がったら合わせた掌を頭の上に持っていき
また胸に位置して沈む。

それを何回もやっている人を見た。

ガンジス川の岸辺は汚い。色々なゴミが浮遊して集まっている。

「ボートで向こう岸に行けるのか?」と聞くと「今は太陽が照っていて暑いから高いぞ?」と言われた。

「18時くらいになるとここら辺で儀式が行われる。」

「毎日?」

「毎日だ。その時に乗るといいだろう。」

あれは何だろう。
別のガート200mぐらい先の方で煙が上がっている。

「マニカルニカーガートだ」

「マニカルニカガート?」

「火葬場だ。」

あれが火葬場か。

ヒンドゥーは皆最後はガンガーに還るという。
死んだら焼かれて灰になりガンガーにまかれる。

輪廻。

子供と出家遊行者は火葬ができないらしく石にくくりつけてガンガーに沈めるらしい。

「あそこには行かない方がいい。汚いから。行った外国人はみんな吐いている。あと死体を焼く蒔き代を取られる。行かない方がいい。」
という。

わたしはマニカルニカガートの火葬場には行かないが、これからホテルに荷物を置いたらパリシュチャンドラガートという火葬場に行く予定だ。

そこのほうがゆっくり見れるらしい。

わたしは正直ガンジス川を見てそこまで感動はしなかった。

ましてや「入りたい」とはちっとも思わない。

ガンジス川で沐浴をしたい。と確かに思っていたがそこまでわたしはインドにのめり込んでいなかった。
率直に言えば「ヒンドゥーに引いていた」のだと思う。

どうせまた入ったら入ったでお金を要求されるのだろう。
服や荷物を自分の身から離したくない。

「オーケー。」
一通り眺めてみて男に切り出した。まだ午前中だ。

違うガートから見たいしパリシュチャンドラガートにも行く。

また違う景色からみたら違うかもしれない。

「向こうのガートに他のガートを通りながら行けるか?」

「行けない。」

「オーケー。違うガートに行きたい。」

ガートの説明をもうちょっと分かりやすく言う為に
「体育館の壇上」を想像してもらいたい。

今わたしがいるのは壇上。

整列している生徒(ガンジス川)を見ている。

両サイドにちょっとした階段がある。
壇上から降りたらすぐガンジス川だ。

波が押し寄せたり今より水位が上がってもいいように
壇上の上にさらに壇上がある。

なので一番低い壇上の一歩先はガンジス川。

そしてわたしは一番高い壇上から低いここに来た。
写真の通りだ。

ここのすべての壇上の一画を「ガート」という。

なので僕は隣の壇上をつたって向こうの学校の壇上(パリシュチャンドラガート)まで行けないか?と質問した。

行けない。という。

ガート同士お互い「島意識」があって、
禁止されているのだろう。
なのでわたしはまた一回壇上の裏手に引っ込んで
出演者出口から外に出て
ぐるっとメインストリートに出て
また違う学校の壇上の裏からガートに入って
違う風景の「生徒達(ガンガー)」を見ないといけない。

「裏手」からメインストリートまでが複雑で暗いし臭いし、
どこかの遊園地の迷路みたいな作りをしている。

なのでこの男は最短のガンガーへの道を通らないで「自分の学校の体育館」に連れて来たわけだ。

違う学校の体育館に行かれたら自分の「島」じゃない為働けない。

同じガートにあるホテルからのマージンも貰えない。

なるほど。

「オーケー。ホテルに行こう。」

約束は約束だ。
そもそもわたしはここのホテルに泊まろうとしてたし、

「ハウマッチ?」

「250ルピーで一番いい最上階の部屋。」

「ガンガーは望める?」

「望める。」

「オーケー。行こう。」

なんでこのホテルに最初から決めていたかというとオーナーが「親日家」だからだ。
ガイドブックに書いてあった。

ただそれだけのこと。

一通り写真を撮り終えてまた狭い道を案内されついて行く。

どうやってホテルまで行くのかしっかり覚えていないといけない。

いざというときは逃げるからだ。

2分ぐらい歩くとそれはあった。

「ここだ。」

薄暗くていかにも危なそうなだだっ広いエントランス。

事件が起きるような予感のフロント。

電気はつけないのか。

男がオーナーに話をしている。
それを聞いたオーナーは「オーケーオーケー。」
何やら全て解ったみたいだ。
ついてこい。という。

ホテルにエレベーターなんて勿論なく、
階段で部屋を案内される。

3階の一番端っこの扉が開く。

「この部屋はどうだ?」

ペンキで塗っただけの何の模様も演出もないつまらない部屋だ。

「ハウマッチ?」

「250ルピーだ。」

「ん?250ルピー?」

「そうだ。」

「最上階か?」

「違う。」

なんで違うんだよ!

「ガンガーは見えるのか?」
「見える。ほら。」
窓を開けるとそこには柵があった。
確かに柵越しにガンジス川が見える。

「なんだこれは。」

「モンキーだ。」

「モンキー?」

「猿が入ってくるから柵があるんだ。」

窓を開くと柵が真ん前にあってオーナーはその柵の小窓を開ける。

「ほら。こうするともっとよく見えるだろ。」

いやいや、見えるけど!カメラにフレームインするし!

気分台無し!
これじゃぁ「牢屋からガンジス川見てる人」じゃん。

「ここにするか?」

するかボケ。

「ウェイトウェイト!」

こいつナメてる。
今気付いたのだが
オーナーは何故だか知らないが
「水」を口の中いっぱいに含みながらわたしに対応している。

ほっぺたがパンパンだ。

どこのホテルに水を含みながら客室を案内する奴がいるんだ。

まぁいい。

「次の部屋を見せろ。」
「こっちだ。」

階段を上っている最中に僕は「決める」という英語が分からなかったので持ってきたポケット辞典で調べてみた。

「デクレイト。」
「メイクアップマイマインド。」

オーケー。いってやろう。

もう一階高い4階に着く。
「ここだ。」

確かに柵はさっきより上階の為猿は登ってこないのかなかったが、、
「いくらだ?」
「350ルピーだ」
「クーラーは?」
「ない。」
「ない?」

この暑いのに?
「決めたか?」

決めるか!なにが決め手で「よしここにする!」と言うと思ったんだろう。
「アイキャンットディクレイド、キャナイシーアナザルーム」
さらにエアコン付きの部屋を見せろ。あと最上階の部屋を見せろ。と要求した。

「オーケー。ついてこい。」という。
それにしても気になる。
余りに量を入れすぎたのかわたしと話す時は顎を前にだして水がこぼれないようにしてる。

「インドのホテルでこのホテルマンなめてるな、どんなとき?」

「口の中に水をパンパンに含みながら部屋を案内する。」

5階に案内される。

「この部屋はどうだ?」

確かにクーラーもある。
テレビはない。

ハウマッチ?

「550ルピー」

その瞬間。
そのオーナーは冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫を開けるとペットボトルを取りだした。

わたしは「あ、暑いから俺に一本くれるのかな」と思った。

するとオーナーは今含んでいる水を「ごっくん」すると
キャップを開け、水をまた口に含んで

「決まったか?」

なんでだよ!

「最上階か?」

「違う。」

なんでだよ!なんで最上階案内しないんだよ!

「決まったか?」

「もういいわ!」

わたしは今すぐここを出て違うホテルを見つけなければならない。

ガンジス川付近の街バラナシ
ガンジス川付近の街バラナシ

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