「柔らかな頬」

柔らかな頬

桐野夏生さんの「柔らかな頬」は「誰も私を救えない」という帯表紙に表されるように主人公カスミを含め登場する人物が悉く疎外感に打ち拉がれる内容となっています。

みなさんは一度でも家出を考えた事があるでしょうか。

高校生の頃北海道の実家から家出したカスミが時を経て結婚し、家庭を築き、二人の子供に恵まれますが、夫道弘の勤める会社のクライアント先、石山と不倫に至り、愛を確かめ合う為に北海道の別荘で互いの家族が集まります。

結果不倫は両家族にバレてしまいます。

そして翌朝。

カスミの愛娘「有香」の謎の失踪を端に別荘に会した全ての人の人生が狂い始める。

という序の口です。

娘は行方不明か?誘拐事件か?生きているのか?死んでいるのか?何処にいるのか?を話の本筋に据えて、残りの人生全て娘を探し続けるカスミ、それがありとあらゆる人物に影響を及ぼします。

自分は「グロテスク」を読んで以来桐野夏生さんのファンになってしまいました。

読み易いくて表現力豊かな文章と登場人物全員に主眼を置いて話を進める構成におもしろさを感じます。

そして「グロテスク」では登場人物が全員醜い感情剥き出しでしたがここでは救いようのない疎外感が物語全体を包み込み、影を落とし、陰惨垂れ込めています。

「グロテスク」「柔らかな頬」を読み終えて、桐野夏生さんは「因果」というのを作品のテーマに置いている気がします。

「柔らかな頬」とは一体誰の頬の事だったのか?「誰も私を救えない」の「私」は誰か?なんて事を念頭に置いて読み進めていくといつもと違う溜め息が出ますよ。