キーパーは点を入れられて悔しがるでもなく声を出すわけでもなく ただ事務的にセンターサークルに向かってボールを蹴った。

ジョギングした後、私は駒沢公園内のベンチに座り目の前で行われていた少年サッカーの試合を見ていた。

今の子は左足でも蹴れるし、シュートの軌道もいい。

背丈からみて小学校高学年だろうか。

私は津田君を思い出した。

津田君は隣の小学校「キッカーズ」のフォワードで自分等の所属していたチーム「久喜少年サッカークラブ」 のディフェンスを一人で全員抜き去りシュートを決めた。

今でも記憶に残っている衝撃的なシーン。

彼と私は直接接点はないが、同学年の同じ地域で何度も試合をし、

それは中学に上がっても、高校にあがっても、試合で、噂で、目にしたり耳にした。

その後彼はプロの道に進み、現在ヴァンフォーレ甲府に所属しているらしい。

ふと、

私とコートの直線上に立ち止まった男女のカップルが目に飛び込んできた。

彼らはちょっと立ち止まるとお互い見つめ始めた。

そしておもむろに女性が彼の目元に手をやると、 彼の目ヤニを取り除いた。

女性は取り除いたその手で頓着なしに髪の毛をかき上げるとなんのためらいもなくまた手を繋いだ。

二人は笑うでもなく、それを話題にするでもなくまた静かに歩を進めた。

私は軽い衝撃を受けた。

その自然な一連の動作に長い年月を感じ、二人の中で流れる空気を見た。

 

私はそれを見送ると今得点が入ったサッカーコートに注意を戻した。

キーパーは点を入れられて悔しがるでもなく声を出すわけでもなく、 ただ事務的にセンターサークルに向かってボールを蹴った。