カンボジア2日目⑦

この回るシーリングファンは何の意味があるのだろうとベッドに沈みながら考えていたが同時に思い出されるのはあの女の子だ。

その遺跡の周りには森があり
隆々と伸びているその木々や鬱蒼と繁る葉の隙間から光が射し廊下や中庭の所々を日や陰にしていた。

さらに遺跡が「遺跡」である事を象徴しているのは
もはや「建物」として形がない程壊されている所だったり、
誰もこれを片付けようなどする訳でもなく
為されたままに放って置かれている所だ。

回廊にも「天井」というものがあったりなかったりする。
照らす光が幻想的で
上記のような木々や葉から落ちてきた光がさらには石と石の間に降ってきてさらにそれを演出する。

そんな今でいう「寂しい跡地」の中を廻っていた。

普通通りすがりに人と人が出会った時
感想は「ちょっと目が合った」ぐらいだと思う。

その後ずっと見つめる訳にはいかない。

お互い礼儀で目をそらしたり
異国の人同士なら軽く口角を上げるぐらいで終わる。
ハーイ。

そんなもんだ。

その軽会釈は大抵は目と鼻の先でされるものだ。

お互い目が合って
居心地の良さを感じたら話を積むかもしれないし何も呼応しなかったら日常に戻る。

旅先の、
一過性の出逢いだったらそんな所だろう。

その女の子は違った。

6歳ぐらいの赤いワンビースを着たその子を
僕は風景の中の一部としてやり過ごした後、ん?となり初めて女の子に焦点を合わせた。

彼女は10分ぐらい前から僕がずっと振り向くのを待っていたかのように、
「最初から」笑みを浮かべていた。

それもかなり遠くの方から。

大多数の皆さんがやるように僕は行き過ごした後、
「あれ?俺を見ているのかな?」
再確認でもう一度振り向いてみる。

すると彼女は
僕が振り向いた瞬間ササッと陰に隠れる。

「あれ?なんだろ。」

こんな遠距離で。

まぁ子供だしそういう事もあるだろう。

独り暮らしの冷蔵庫ぐらいある石が積み上げられ、
階段なんだか敷居なんだか分からない石がゴロゴロしている「家の中」を歩き出す。

ただ歩いていても何か気になる。

よし。

今度はこっちのタイミングでササッと見てやる。

せーの!

あれ?
いない・・。

あれ?どこいったんだろう。
でも何か視線感じ・・わーびっくりした!!

あんな遠い所から見てる!

あっ!走った!

あれ?どこいった?
いなくなった。

「この先の仏像にお線香をあげる場所があります。
お線香いかがですか?」

家の中で所々こういったように座って物を売っているグループがある。

お母さん?が商売をしている間子供達は周りで追いかけっこしている。

ただあの女の子だけは単独行動だ。

エクスキューズミー?
フーイズザッガールフーイススタンディングアラウンドゼアー?

ガール?アイドンノー。

いや、さっきからあそこら辺にいる女の子だよ。

あれ?いない。

このアイドンノーが本当に「女の子は知らない」の意味で使っているのか「あなたの言っている意味がわからない」と伝えているのかどっちなんだろう。

よく関わりたくない時面倒臭がってアイドンノーという奴がいる。

だんだん遺跡どころではなくなってきた。

後ろを振り向く。

いた。

遠くの方に。

ちょっと手を振ってみようかな。

「おーい!何してるのー?!という感じではなく「やぁ、」といった、

もし自分の勘違いでもいいようにリスクを考えながら自信ない感じで右手を左右に揺らす。

やぁ。

うわ!振り返してきた!

明らかだな。

何か言いたいのかな?

距離にして大体30メートルぐらいで
ここからだとこうして手でつまめそうな小ささの距離を保たれてる。

追いかけてみようかな?

よーし。
ちょっと待ってろよ・・うわ!逃げた。

1、2歩彼女に向かっていっただけなのに。

何がしたいんだろう。

ここの遺跡はそれ自体入り口と出口があるわけではない。

なので感覚は古びた建物の中を見学している感じだ。
何か珍しい骨董品やもちろん調度品もない。

積まれた古石に生い茂る自然。

そんな幻想的なこの場所で「得体のしれない女の子」だ。

妖精?

目の前には現れず
振り向く所に位置して、
遠もはるばるこちらを見送り
「あれ?俺のこと見てるよね?」と手を振ると手を振る。
「ん?どうしたんだい?」と歩一歩向かうと被害者のように逃げる。

この後一定の距離を歩いたあと3回ぐらいこれを繰り返す。

いたちごっこ?

段々気持ち悪くなってきた。

こうしてたまに振り向くと手を振っている。

僕が振り向いて、
見つめ合って、
手を「振りだした」訳ではなく、
僕が振り向く前から振っていたに違いなかった。

よく日本で
美容室でお会計した後、
ありがとうございました。と言われて
店先まで見送られて
歩き出す。
もう店内入ったろと思って振り向いたら
うわ!まだいるし!
しかも手振ってる!
怖っ!
というのがある。

アンコール遺跡群のとある遺跡では
何も切ってないし払ってないのにそれがある。

女の子の「原因」が全くわからない。

ただのシステムエラーじゃねーか!

こんなもんカンボジアが遺跡を作り過ぎて生じてるエラーだ。

あの女の子誰?
「知らない。」って!

バグってるわ!

この遺跡がもしファミコンカセットだったら一回本体から取り出して
基盤の所フーフーしてやる所だわ!

段々怖くなった僕はとりあえず冒険の書をもう一回スタートすべく遺跡を後にしようと踵を返す。

歩き出して、
最後にもう一回見てみようかな。という気になる。

どれ。

うわ!遠距離から見てる!

何で!?

生ぬるい窓風を循環させてくれるファンを眺めながら、
ひょっとしたらあの子はカンボジア政府に雇われていて、
外国人が自国に帰ったら「こんな子がいた!」というエピソードを作るためこのような動作を行う事を指示され、
決して接触しないように
話さないようにと
教育されている子供なのかもしれないと愚考をめぐらせていた。

話題性を作って集客する類いなのかなと勘繰っていた。

だとしたら僕はまんまとひっかかった事になる。