わたしは1人ホテルのレストランで瓶のペプシを飲んでいた。
『飲んでいた』というのはちょっと間違えかもしれない。
昨日から何も食べていない。
インドの食に対する衛生面を信じられないわたしはペプシを『食べて』いた。
わたしにとってペプシは『朝食』になっていた。
喉が渇いたらミネラルウォーター。
お腹が減ったらペプシ。
不思議とこれまでの6日間あんだけ飲料水を飲んだのに小便は1回も出なかった。
多分全て汗になっているんだと思う。
時計は9時40分をさしている。
先程タージ・マハルを見てきた。
中には入れなかったけど。
外から。
頭だけ見えた。
朝、
わたしはやっと開いたホテルの門を右に行く。
バラナシで泊まったホテルのオーナーは休みでもタージ・マハルの庭には入れる。
そこから写真が撮れる。と教えてくれた。
わたしはそれを頼りに足を運ばせる。
昨晩から泊まっているホテル『スイッダールタ』
を右に行くと後は100mも無いところに入り口はある。
簡易的なゲートが設けられていて通常ならここから入るらしかった。
外壁が10m以上もあってその中がどうなっているかも分からない。
右に丸い円柱の形をした扉がある。
あれが入り口だろう。
インド軍がパイプ椅子に座って警備にあたっている。
おうど色で、綺麗な制服を着て、談笑している。
彼らは日本人を認めると
「何しに来たんだ?
休館日なのに間違えてきちゃったパターンか?」みたいな顔を一律する。
何かヒンドゥー語で目線だけをこちらに据えて話してる。
「はい。そのパターンです。」
わたしは知ってるなら話しは早いと
「エクスキューズミー、キャナイカムイン?」
中に入っていいか聞いてみる。
インド軍は黙って首を振る。
4人いる中の英語ができる人が
「トゥモローモーニング。」
明日の朝6時に入れるという。
わたしは庭までなら入れるんじゃないの?と聞く。
「ノー」
入れないんかーい!
するとそのうちの1人が「今日は中には入れないけどイーストゲートの河のほとりに行ったら外からのタージ・マハルが観れるよ。」と身振り手振りで教えてくれた。
わたしは「そこでみんな写真撮ってるよ」というのを聞くと「センキュー」といい向かってみる事にした。
タージ・マハル横の草むらは瓦礫の山。
誰も片付けられないで何百年と放置されている。
瓦礫一枚はかなり大きくて1畳分ぐらいの大きい瓦礫が折れていたり、そのままだったりして積まれていた。
多分この城壁に使った石だろう。
頭の中でよくニュースで特集されている「片付けられない人」を思い出す。
ここら辺の草は鬱蒼と茂っていて誰も刈る気はないのだろう。
昨日は暗かった街並みをわたしは悠々通ってイーストゲート迄来た。
昨日リクシャーに降ろされた所だ。
イーストゲートの方が賑やかで右手の方にはジューススタンドやカフェなんかも立ち並んでいる。
人の往来も多いし
相変わらずリクシャーが話しかけてくる。
イーストゲートにも同じく軍がいる。
先程のウェストゲートのような楽々な感じではない。
タージ・マハルの外壁に沿っていくと辺りは別の集落が望める。
そこではちょっとした公園になっているのか
裸で住んでいる人が多い。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!ジュースいらない?うちあそこだからさ!」
わたしはわかったわかった。覚えておく。帰りに寄る。
と適当な事いってあしらった。
「帰り寄ってね!」
と言われた。
左手には城壁。
その壁は高くてウェストゲートと同じく中は見えない。
草むらの道を真っ直ぐ行くと河にぶつかる。
ヤムナー河。
ちょっと今居る位置から低い所にあって川としては向こう岸まで30mぐらい。
川辺にはボートがある。
そこの川辺まで草むらが支配していてある決められた道を行く感じだ。
ここから見える景色は広くて向こう岸は何もない。
また草が広がるだけ。
川上も川下もどこで始まりどこで終わりか分からない。
長いのだろう。
わたしの右斜め後ろに簡易的な家というより小学校にあった大きなウサギ小屋みたいのが3つぐらい並んでいる。
インド人が座ってる。
住んでいるのだろう。
左手の方には外国人観光客が10人ぐらいいる。
インド人も多い。
インド人の集団が何かヒンドゥー語で話し掛けてきた。
10人ぐらいに囲まれた。
「アイドンノー」
とお断りを入れると集団に笑われた。
何がおもろいんだよ。
お前らだよ。
他の外国人は大きな一眼レフカメラを相棒にしている。
休館日で入れない恨みからか、
川辺の方、
手入れされていない草むらを掻き分けて、
ベストショットが撮れる位置を探していた。
外国人がカメラを向ける。
腰を下ろす。
カメラに「カシャカシャ」いわせる。
そのカメラの向く方向に目線を送ると「それ」はあった。
タージ・マハルだ!
うわーすげー!
外壁で上半身しか見えなかったが確かにすごかった。
すげー!すげー!
今日は休館日だが、
明日タージ・マハルは朝6時から入れる。
「明日必ず行こう!」
それからわたしはホテルに帰る。
来るとき「帰りに寄る」と約束した子供が遠距離から「お兄ちゃん!」と呼んでいた。
ホテルに着くと荷物を部屋に置いてホテル内のレストランに行く。
そしてわたしは昨日から何も食べていない事を思いだしペプシを『食べて』いた。
時計は9時40分をさしている。
「今日これからどこに行こう?」
すると、
向こうの入り口からアジア系の女の子が通った。
女性というよりは「女の子」といった感じだ。
女の子はこちらに気付くとまるで知り合いに会ったようなテンションと笑顔で
「アーユージャパニーズ?」と聞いてきた。
わたしは「イエス」と答える。
「リアリー?」となぜか嬉しそうだ。
わたしはまさか!と思い聞いた。
「アユージャパニーズ?」
もし日本人なら英語はやめようよ、
と思った。
女の子は
「ノー。アイムコリアン。」とこたえた。