『タケちゃんマン』~第一夜~

三夜連続でお送りしております。

一夜目の今夜は『タケちゃんマン』というお話。

森田(以下、けんじ)が小学校2年生、兄貴(以下、丈寛、タケヒロ)が小学5年の頃。

『おーい!けんじ~!』 けんじの部屋に丈寛が入ってきました。

なんだろ?

すると唐突に丈寛は言いました。

『今日からお兄ちゃんは、お兄ちゃんではない!タケちゃんマンだ!』

うすうす気付いてはいましたが、ついに丈寛がヒーローになったのです。

今まで『点』だったのが、その瞬間『線』になりました。

詳しく聞く意味も込めて『どういう事?』と聞き返すと

『いいかけんじ。お兄ちゃんは、今日からタケちゃんマンだ。』

『タケちゃんマン?』

『そう。タケちゃんマン。お兄ちゃんの名前タケヒロだろ?だからタケちゃんマン。けんじが困った事があったらいつでも呼んでくれ。すぐ助けにいくから!但し呼び方があるから。』

『ヨビカタ?』

『そう。呼び方。右足をピーンと後ろに伸ばして、左足は中腰。手は口に添えて。おーい!タケちゃんマーン!たーすけーてくれー!こう呼んでくれ。』

正直小学校2年生のけんじは思いました。

『すげーな。』

『ただ注意があって、いいか?けんじ。聞いてくれよ?呼んだら到着するまでに時間が掛かるから。』

『どのくらい?』

『家の中から呼んだらなら走って10秒。外からなら走って30秒以内。』

『じゃぁ困ったことがあったら呼ぶね!』

そう言ってけんじが部屋から出ようとしたら、ぐぃっと腕を掴んで丈寛が言いました。

『けんじ!』

『何?』

『今呼べよ。』

『え?』

『今タケちゃんマン呼べよ!』

『でもまだ困ってないよ。』

『いいから呼べよ!』

なんて俺は愚鈍なんでしょう。なんで察しなかったんでしょう。

丈寛はどうやら、早くタケちゃんマンになりたくて待てないらしいのです。うずうずしているのです。早く変身したいのです。

けんじは『助け』は今必要としてないのに呼んでみました。

『たけちゃんマーン。たーすけーてくれー。』

すると目の前にいる兄貴が急に歌い始めたのです。『♪トュルットュ、ルールー。トュルットュルール。トュットュルットューー(登場時のテーマソングらしい)よーーー!(来た音)タケちゃんマンだよ?呼んだかい?』

タケちゃんマンです!確かにタケヒロはタケちゃんマンになっていたのです!そしてその場でけんじに言いました。

『どうしたんだい?』

そんな遊びをその日夕方やっていました。

けんじは部屋の電気を付ける時も、スリッパが片方見当たらない時も、布団を畳まないといけない時も、タケちゃんマンを呼んだのです。

しかし、タケチャンマン。最初は『トュルットュルール♪』

言って、弟の部屋の電気を消しに来たり、弟のスリッパ探したり、弟が寝た布団たたんだり、しましたが、

次第にゼーゼー言いながら登場したり、階段ダダダダっ急いでトュルットュルールール忘れて来たり、呼んでるのに完全に無視してテレビを見だしました。

そんな事があったその日の夜です。

事件は起こりました。

部屋でけんじが右足の裏で遊んでたら、足の裏がカチカチになっている部分があったのでタケちゃんマンを呼んでみようと思いました。

しかし呼んでも来ません。あれ?と思ったけんじはここで家の中聞こえる大きな声で『タケちゃんマン!!助けてよー!ねー!たけちゃんまーん!』5分くらいやってたら

2階からダッダッダッダ!ダン!

降りてくる音。

タケチャンマンが来た!と思ったら、

タケチャンマン。

障子を開けて、けんじを確認して、階段を降りたそのままの速度で、けんじの頭を叩きました。

丈寛です。タケチャンマン違います。丈寛が鼻息荒くして。丈寛がけんじを殴り。丈寛が今目の前に立っています。

そして、あんだけ何かあったら呼んでくれ、いつでも助けに行くから。といってた丈寛が『一家の長男・兄貴』としてこう言いました。

『けんじ!おまえタケちゃんマン呼びすぎなんだよ!』

『これじゃただの奴隷じゃねーか!』

第一夜『タケちゃんマン』完