カフェベローチェの女

カフェベローチェの女

「女性が恋愛をするメカニズムというのは科学なの。女性は男性のフェロモンを鼻から嗅いで遺伝子レベルで自分に合う人合わない人を見定めてそこで自分の相手を見つけるの。それがピークなのが25歳でその歳の女性は20m先の男性のフェロモンを感じ取ることができるものなの。」

わたしは彼女が何か重要なメッセージを伝えていることに気付き、ポケットからレコーダーを出した。

「今のセリフをもう一度ここに吹き込んでくれないか?」

カフェベローチェの女は一笑を放った後「じゃぁあなたが今何を理解したかまず吹き込みなさいよ」というと、何か悪魔に祈祷をする時間が始まったかのように急に席を立ち、トイレに向かった。

わたしは酷く狼狽した。

なぜなら先程来カフェベローチェの女が綿々と語っていた「25年前のフェロー諸島にいた科学者」の話をわたしはまるで聞いておらず、

彼女の首もとを上品横たわり、語気を強める毎に押し上がる金色の装飾物に目を奪われていたからだ。

もうそろそろカフェベローチェの女が帰ってくる。

わたしは今フェロー諸島に抱いているイメージをレコーダーに吹き込もうとしている。