2人の間にはまるで河川が流れているかのようで、

その幅はもしどちらかが後ろに下がり、助走してきて、それを飛び越えようとしてもこちら側には片足も、爪跡を残すことも出来ず余裕綽々で落ちる。
わたしとがたいのいい男はそのくらいの距離で言い合っていた。

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あれからわたしは一人の痩せた青年に話しかけられた。

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「Where are you going!」
外国人が100mも歩けば2,3人には声掛けられるデリーで、
いちいち話を聞き、それでも尚しつこい奴らをわたしはどうにかして追い払ってきた。
「NoThankyou」という予防線はもはやインド人がわたしに向かってきて何か話し始めるか否かぐらいに発するようになっていて、彼らは「いやいや何も話していないじゃないか!笑」と驚く。

そんななか気付いたときには青年はもう既に至近距離にいた。
「Where are you going!Ok,Do you have a map?Ok,come width me!」
そしてわたしが行かない旨をお伝えすると
「you know,There is DTTDC office near here.」

わたしは青年が今口走った「DTTDCオフィス」という者に見覚えがある。
インド初日にわたしを巻き込んだ者だ。
あの時以来わたしの中でどうにかしてこの「DTTDCオフィス」の首根っこを掴み、
これからインドに訪れる日本人が口にくわえられ、持っていかれないようにする為にも追い出さないといけない。

マックもこれ。。嘘だろ。。

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おいおい。これ。こんなところまで連れてきて。。オフィスなんてあるのか?

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「着いたぞ。あそこからMapを持って来い!」って。。

あそこ?インド政府公認の?

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「少年!ちょっと取って来てくれよ!」
わたしが頼むと青年はオフィスに入っていく。
するとがたいのいい男が出てきた。
「やあ!フレンド!!よく来たね!さぁ!中に入れ!地図があるぞ!さぁ!」
怪しいではないか。「さぁ!さぁ!」って。これは怪しい。
サービス業で「『さぁ!さぁ!中に入って!さぁ!』とかいう店は怪しい」というのは、
「初めての都内で訪れてはいけない所の特徴33選」の1桁台に記述されている奴だぞ。
わたしは「お前が来い!」と突っぱねる。青年は近場でその様子を傍観している。
男は「フレンド!何言ってんだ!さぁ!中に入れ!」と遠くから声を張る。

2人の間にはまるで河川が流れているようで、お互い「さぁ勇気を持って飛んで来い!」と鼓舞する。
誰が必ずドボンする所に飛び込むか!
「お前が来い!地図は無料だろ!」
「地図はこの中にあるんだ!早く中に入れ!」
「行くか!そんな怪しいところ!お前が地図取って来い!」
「だから!中に入ってこなきゃ渡せないだろ!」
「なんでだよ!中に入って地図取って来てここで渡せよ!」
「このオフィス中にはインドの地図が大量にあるんだ!」
「一枚でいいから!取って来いよ!でそこから投げろ!」
「中にあるのにどうやって渡すんだ!」
「いいから早く取って来いよ!」
「中は涼しいしチャイもあるから!」
「いいからとって来いよ!」

わたしはこの不毛で何も生えない会話を切り上げた。
DTTDCオフィスが何なのか実態はつかめなかった。
悪い事をしたと思ったのか、立ち去るわたしについてきた青年に確認した。
「ここがDTTDCオフィスなのか?」
「違うよ?」
「じゃぁここどこだよ!どこに連れてきたんだよ!」

その後わたしはニューデリーレイルウェイステーションの外国人専用オフィスに訪れる。
今夜ジャイプルに向けて出発しようと思う。
「今夜ジャイプルへのチケットはあるか?」

何時間か前グルザーに紹介された旅行会社のオフィスで「今夜はチケットはない。ほら。見てみろ。キャンセル待ちがこんなにもいる。」
と知らされた。
チケット販売員は涼しい顔で「あるよ。」という。
「ある?」
わたしは全容が分かった気がする。
「いくら?」
「470ルピー」
「寝台列車か?クーラー付きか?」
「3A」

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グルザーの友達が示したチケット代金は1500ルピー程だから3分の1の料金だ。
「インドの鉄道で片道1000ルピーを超えることはない」という以前の教訓が強く更新される。

なぜ彼らが「今夜のチケットは取れない。ほらこんなにキャンセル待ちがいる」というチケットがあっさり取れたのだろうか?
憶測だが、彼らが提示したチケットは庶民的なグレード一番低い鉄道の事で、最安値のチケットのことだったと推測する。
同じ行き先でもグレードが違うと「60ルピー」程で行ける。
どうにか儲け率を上げるため彼らはその安値のチケットを取ろうとして、

「今日は満席だ。明日にしろ」と提案してきたのだと思う。
グレードの高い、外国人が乗るような鉄道は空席が多いみたいだ。

確かに彼らのやりたいことは分かるが、
時折彼らは本来の正規料金で乗れる鉄道(この場合470ルピー)よりもそのグレードを下げ、サービスを下げ、素人同然の添乗員をつけて1500ルピー頂く。
頂くのはいいが、それに見合うサービスを持ち合わせていなく、
アクシデントにアクシデントを重ね、何十層にもなったそれのたった一つのアクシデントを達成したら喜ぶような節がある。
いやいやまだまだあるぞお前!と言いたくなる。
いつしかこちらもそんな集団にいると遠近感を無くし本丸が霞んで見えなくなる。

わたしのようなジリ貧旅を楽しむような者には安くてサービスもいい正規の場所で切符を購入した方がいいみたいだ。

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わたしはチケットの申込用紙を記入して自分の購入時期が来るのをソファーで待っている。
隣りにいる可愛らしい子供がこっちを見ている。

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そうそう。そんな感じ。

多分だけど、
君と僕は今同じ気持ちなんじゃないかな?