バラナシで会った日本語を話せる少年

バラナシで会った日本語を話せる少年

目が合うインド人は大抵客引きだ。

合わないインド人はこちらが合わそうとじっと見ても合わない。

わたしは話し掛けて来た少年も「また客引きか、、」とうんざりしたが、
ただ余りにも日本語が上手くてわたしは自然と張っていた緊張がゆるんだ。

イントネーション、発音も笑ってしまうぐらいうまかった。

「日本語うまいね!」と褒めると嬉しそうだった。

以後少年と日本語でのやりとり。

「日本のマンガに僕のお兄ちゃん出てるからね。」

「そうなの?」

「そうだよ。」

わたしはそこはあんまり掘り下げないようにした。

「お兄ちゃんちょっと疲れてるね?」

「わかる?」

「分かるよ、ここにくる日本人はみんな疲れてるよ、」

「そうなんだ、」

「そうだよ、ニューデリー、アーグラ、でみんな騙されてここに来るからね。」
「アーグラ?」

アーグラはニューデリーから電車で約4時間。
世界遺産『タージ・マハル』がある所だ。

本来北インドを1週間で回る旅行は
ニューデリー、
アーグラ、
バラナシ、
ガーヤ(時間があったら)
コルカタを回り
コルカタから日本に帰国するが時間的に見て回れる。

多くの旅行者はそうする。

ただわたしが見たいのは

ガンジス川とタージマハルだけだ。

わたしは余裕をもってニューデリー→アーグラ→バラナシ→ニューデリーの旅を計画していた。

3大都市を回るだけの旅。
ただ以前ここで書いたがインドの列車は遅れる。
10分、20分ではない。
8時間や12時間も遅れるという。

最終日にバラナシからニューデリーに15時間掛けて戻る際、
もし列車が遅れたら飛行機に乗れない!と思い
非常事態を想定して
ニューデリー→アーグラ→バラナシ→ニューデリーを止めて、

ニューデリー→最初に一番離れたバラナシに向かいアーグラ→ニューデリーとニューデリーに上ってゆくルートを選んだ。

分かりやすくいうと
東京→名古屋→大阪→東京を変更して、
東京→大阪→名古屋→東京。
最終日の東京行きの時間と距離を計算しやすくした。
日本ならそんなことする必要がないがインドは上記の理由や社会情勢で何が起こるか分からない。

話がそれたが、
今少年が言った「アーグラも騙す奴が多い。」という発言がわたしを驚かせた。

バラナシの次に行く都市。
ニューデリーと変わらない治安の悪さなのか・・・。
少年は
「日本人みんなニューデリー、アーグラで騙されてバラナシに来るからインド人の事を嫌いな人が多いんだ、」と続ける。

「そうなんだ、」
分かる気がする。

「ただインド人を嫌いにならないで?インド人でもいい人はいるから。。。」

わたしはこの言葉に胸を打たれた。

なぜならわたしがその「インド人が嫌いな人」の先頭集団を走っているからだ。

わたしはその「インド人を嫌いにならないで?」と頼んでくるような、こんな悲しい言葉をこの少年に言わせてしまった事に強く悲しい気持ちになった。

日本語で言われたから心に刺さったのかもしれない。
「お前は何をそんなに怒ってるんだ?」とバラナシの駅前で言われた。

これも考えさせられた。
今の言葉もつらい。

わたしは常に戦闘態勢だったがこの言葉を聞いて戦う気を失せてしまった。

少年と座って話していると客引きが来る。

客引きにしてみれば「おっ!あいつ日本人と仲よさそうに話してるじゃん!しめしめ。」
だったのだろう。

少年が客引きに「あっちへいけ」とヒンドゥー語で追っ払う。
わたしは「あの人なんだって?」
と今来たインド人の事を聞く。
やっぱり「客引き。」らしい。

少年に以前から疑問に思っていた事を聞いてみた。

こんなに暑いのにインド人はみんな汗をかかない。

わたしは不思議に思っていた。
「インド人が暑いと感じる気温は何度なの?」と聞いてみた。

「ん?」

「インド人が暑いと感じる気温は何度なの?」

「ちょっとよく分からない。」
この少年は日本語でもまだまだ分からない言葉があるんだと思い、

「インディアン、フィールホット、フォワット・・・えーと・・『気温』・・・『気温』って英語で何て言うんだっけな・・・」

わたしはポシェットから和英を取り出し「ジャストモーメント・・えーと・・。」
と急遽調べる。
「あっ!」

見つけた!
「テンパーチャー!」
と叫んだ。

少年もこちらの聞きたい事が分かったのか
「あー!」と叫んだ後、
はいはいみたいに頷き

「分からない。」と軽く告げた。

分からないんかっ!

「あー!」って叫んだから。

そんな事より!みたいに少年は「『大沢たかお』
を知っているか?」と聞いてきた。

わたしはなんとか持ちこたえて、

「知ってるよ?」
と返した。

「僕のお店に来たんだぞ?」

「そうなの?」

「友達だ。」

「そうなんだ、連絡先知ってるの?」

「知らない。」

知らないんじゃねーか。

「長澤まさみも来たんだぞ?」

「すごいね、」

「君の家は何屋さんなの?」

「サリーを売ってるんだ。」

「そうなんだ。長澤まさみとも友達なの?」

「友達だ。」

「連絡先知ってるの?」

「知らない。」

知らねーんじゃねーか。

「大沢たかおは『僕のお兄ちゃん』と仲がいいんだ。」

「そうなんだ。お兄ちゃんどこにいるの?」

「日本。」

「日本にいるの!?」

「大沢たかおと友達なの?」

「友達だよ。」

「お兄ちゃんは番号知ってるの?」

「知らない。」

知らねーんじゃねーか!

もういいわ!

なんでもいけるじゃねーか!
そもそも『大沢たかお』と言っておけば日本人は食いつくだろう。

話がうまく出来すぎている。

少年は「ここら辺に泊まってるの?」
と聞いてきた。

わたしはここまでの話しで「まさかこの少年も客引きか?」と思い始めた。

試しに僕は言ってみた。

「俺何も買わないよ?」

「いいよ?別に。」

「ガイド料とかも払わないよ?」

「いいよ別に。ホテルあるの?」

わたしは嘘をついた。

「ホテルはあるよ。泊まってる。」

「絶対嘘!」

「本当だよ。」

「絶対嘘!名前は?」

「忘れた。」

「住所は?」

「いちいち住所覚えていない。」

「バラナシに今来たんでしょ?」

「そうだよ。」

「じゃぁ嘘だね!リュック持ってるじゃん!泊まってたら置いてくるじゃん!」

変な空気が流れた。

向こうにしてみれば
「まだ僕の事信用してないんだ。」と思ったのだろう。

どうにか空気を戻したかったのか少年は話題を変えようとした。

『地球の歩き方』と言いたかったのだろう、
言い間違えて
「『チカンの歩き方』持ってる?」と聞いてきた。

『チカンの歩き方』て。

チカンの教科書!?

「チカンの歩き方」を俺はインドで真似するのか。

痴漢も普通の人も歩き方一緒でしょ!
「こうかな?違うな・・・こうかな?チカンはこう歩くのかな?」って真似するのか。

わたしは「キャナイテイクアピクチャー?」と許可をもらうと初めてインド人の写真を撮った。

その後僕は少年に別れを告げた。そしてマニカルニカガートを目指した。

少年は最後まで日本人に「何かを売ろう」とはしなかった。

インドに来て初めてだ。
わたしが客引きに疲れていたから売らなかったのか、

もしかしたら本当に仲良くなりたいだけだったのかもしれない。

「少年は本当に大沢たかおと友達なのかもしれない。」と思った。

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