「君は僕のエンジェルさ」って。その時は。だけどこっちに戻ってきてからは「仕事は順調か?」とか「身体は大丈夫か?」とかそういうのばかりでわたしがアイミスユーっていうとはぐらかされるの。そういうものなの?」

鉄板の上で焼かれた海鮮お好み焼きを眺めながらアジアンテイストの女はデジタルカメラのプレビュー操作にもたついているわたしに「ここ。右押して行って」と雑に教える。
その時わたしは見た。
アジアンテイストの女の表情を。

尻尾の長いモンキー。
白い砂浜とグリーンの海。
テラスで乾杯する集合写真。
丸太小屋に続く石畳。

どういう気持ちでこの丸太小屋の写真を撮ったのだろう。
なぜシャッターを押したくなったのだろう。
「あ。これ?向こうに日本人がいて。その人のお家。ここに泊まったの。」
わたしはデジタルカメラを置き、海鮮お好み焼き用のヘラを取る。
「やっぱり気がないのかなぁ?」
海鮮お好み焼きの側面が狐色になっている。
「男ってそういうものなの?」
上に乗っている海鮮もさっきよりふっくらしている。
「メールも最初はすぐ返ってきたんだよ?」
わたしは鉄板と海鮮お好み焼きの下にヘラを滑り込ませる。
「やっぱりスカイプかな?」
思いのほか海鮮お好み焼きが重く大きいみたいだ。
わたしは躊躇した。
なぜならわたしはかつて一度もお好み焼きをひっくり返したことがないのだ。
「でも相手の表情見えるのって良し悪しだよね?」
いや。ある。あるがこの緊張感ではない。デジカメのプレビュー操作で失望させた後に海鮮お好み焼きをひっくり返した経験は今までない。
そんな経験ないのだ。
「何かこうした方がいいとかある?」
わたしは急にお腹が痛くなってきた。
この大役をアジアンテイストの女に代わってもらおうか。「トイレ行ってくる」といい「ひっくり返しといて」と打とうか。
「そういえばあなたもそういう人いたよね?」
いやいや待てよ。海鮮お好み焼きのヘラを持ち海鮮お好み焼きをめくるいよいよの時に海鮮お好み焼きとアジアンテイストの女を残して「ちょっとトイレ」はないだろ!そんな時に何を出すというのだ!
「海外行った時。」
手が震えてきている。
「確か韓国人だったよね?」
女がチヂミの話をしてきている。
「なんか言ってよ」
プレビュー操作。あれさえなければもし仮に失敗しても「最初の失敗」として大目に見てくれただろう。
「早くひっくり返せば?」

君は僕のエンジェル。
尻尾の長いモンキー。
白い砂浜とグリーンの海。

わたしは今この海鮮お好み焼きをプレビュー操作でもたついた後ひっくり返す。

プレビュー操作でもたついた後ひっくり返すのだ。

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